魔族の少年を拾いました

著者:

表紙:

先行配信日:2024/04/26
配信日:2024/05/10
定価:¥880(税込)
二見絵里が異世界に迷い込んで一年。
今はエリーと名乗り、この世界の人よりも多く持っている魔力のおかげでなんとか一人で生活していたある日、家の前で角が生えた少年リカルドが倒れているのを見つける。
ぼろぼろの恰好で弱っているリカルドを見捨てられず、かつて自分が老夫婦に助けてもらったのと同じように保護することに。
しかし魔族であるリカルドは、魔力の補給にキスが必要で……

「ほかの方法でもいいの?」「夢ならいいよね?」

いくら自分より長く生きているとはいえ、見た目は可愛い少年だったはずのリカルドが成長していく姿に次第にときめきを感じていくエリー。さらに大人の姿のリカルドにキス以上のこともされて甘く溶かされるような夢を見るようになってしまい!?
魔族のあざとかわいいヒーロー×お人好しな異世界転移ヒロインの甘々ラブストーリー!

成分表

♡喘ぎ、二穴、NTR、非童貞、などの特定の成分が本文中に含まれているか確認することが出来ます。

立ち読み
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◆とある雪の日



 まだ日が昇る前の早朝、一人の少女が眠そうに玄関へと向かっていた。少女の歳は十代後半か、短めの髪は黒く、毛先に向かうほど色が抜けたような褐色だ。少女が濃褐色の目を眠そうに半分開けながら内開きの扉を開いた途端、肌を刺すような冷たい風が中へと吹き込む。
「さむーい……」
 開かれた扉の向こう、厚い雲に覆われた空からはしんしんと雪が降っている。辺り一面は銀世界、少女の吐く息は白い。少女は寒さに震えながら一歩外に出ようとしたところで、扉の目と鼻の先の地面に大きな塊があることに気づいた。
(……あれ、なに?)
 それは雪が薄く積もっていることからして、そこに置かれてからさほど時間はたっていないだろう。扉の前に大きな荷物など置けば邪魔になることは容易に想像がつくし、少女はつい先ほどまでぐっすりと眠っていていま初めて外に出ようとしたところなのだから、それは少女の仕業ではない。
(なんだろう……)
 少女は何度かまばたきをして目を凝らす。その塊は、人間の子どものように見えた。
「は?」
 少女は思わず間抜けな声を出してしまった。何度目を擦ってみても、うっすらと雪に覆われているそれは人間の子どもに見えて、ますます少女は混乱する。
(おかしい……どうしてこんな所に子どもが……?)
 人里離れた場所にあるこの家には、少女一人しか住んでいない。隣家と呼べるような場所はずいぶん歩かないと目視すらできないくらいに遠く、少女の記憶ではそこに子どもはいなかった。だというのに、なぜこんな場所に子どもが倒れているのか。
「……えっ、倒れている?!」
 ようやく事態を理解した少女は慌ててしゃがみこみ、子どもの様子をうかがった。積もった雪を払うと、蜂蜜色のさらさらとした髪が現れる。子どもはこの天候にはそぐわない薄着である上に、衣服はところどころ破けて血がにじんでいた。服の合間から見える白い肌には、切り傷や痣が見える。このままではいけないと子どもを抱き上げるため仰向けに転がしたところで、少女は目に映ったその姿に息をのんだ。
 子どもは十歳くらいだろうか。男なのか女なのか判断がつきにくいくらいにきれいな顔をしているが、子どもらしい丸みを帯びた顔は白く、唇は紫に変色している。こんな寒い中倒れていたからか、体温がかなり低くなってしまっているようだ。問題のある状態ではあるが、少女にとってさらに問題なのは、子どもの蜂蜜色の頭の左右に羊のようにくるんと巻いた角が生えていることだった。
(角……って……)
 角がなければ、ただの人間の子どもで済んだだろう。少女の記憶には角が生えた人間などおらず、この子どもは人間なのかと不安になった。
(……いや、角生えていてもいなくても、このままじゃこの子、死んじゃう!)
 少女は角が気になるものの、子どもをこのまま放置するわけにはいかないと首を横に振った。いまは冬、この辺りは雪が十センチ以上積もるため、放っておくと凍死してしまうだろう。少女は家の中に運ぶため、子どもの冷たい体を抱き上げようとしてその重さに慄く。
(お、重……っ。子どもでも、人間ってこんなにも重いものなの……)
 角が生えているため、人間なのかは怪しい。少女は腰を痛めそうだと思いながら、なんとか少年を担ぎ上げた。
(……世のお母さんたちは、偉大ね……)
 少女はひいひい言いながらも、子どもをぱちぱちと薪が燃える暖炉がある部屋まで運んでその体を横たえる。少年の体はかなり冷えていた。少女はまず温めなければと慌てて寝室から毛布を引っ張り出す。
(どうしよう……あぁ……とにかく、ぬれた服のままはまずいよね)
 少女はどうすればいいのか、すぐには判断がつかなかった。だが、少なくとも雪でぬれてしまっているぼろぼろな服を着せたままではまずいだろうと、服を脱がせる。
(あ、男の子か。……いやいや、わざとじゃないし。ノーパンだったし、脱がせたのは人命救助のための処置だから……これは不可抗力よ!)
 服を脱がせたことで、子どもが男の子だという事実が判明した。少女は心の中で言い訳しながら、少年の裸をできるだけ目に入れないように体を拭き、自分のチュニックを着せる。
(昔、特集番組で見た気がするなあ。たしか、急激に温めるとだめなんだよね)
 少女はぐったりと意識を失った少年の体を後ろから抱えてロッキングチェアに座り、少年に毛布を掛ける。少女は深く息を吐くと、ゆっくりと目を閉じた。
「……ほんと……この世界、不思議なことが多いわね」
 少女がこの世界、と表現したのには理由がある。少女はいわゆる、異世界に迷い込んだ人間だ。
 いまはエリーと名乗っているが、少女の本来の名前は二見絵里という、日本という国の一般国民だった。
 この世界に迷い込んだのは約一年前、少女が十七歳であった冬の日のことだ。その日、少女は夜遅くに信号無視で交差点に進入してきた車にはねられた。少女はいっそ意識を失っていたかったと思うくらいにぼやけた視界と全身を襲う痛みに悶え苦しんでいるうちに、目の前が真っ暗になっていつの間にか見知らない場所に転がっていた。
 少女にとって幸いだったのは、異世界に迷い込んだと同時に負っていたはずの大けがが治っていたことだろう。夢かと思った少女だが、身にまとっていた服は裂けて血塗れになっていて、事故に巻き込まれたことが事実だと証明していた。
 そんなぼろぼろな少女を拾ったのは、この家の前の主であった老夫婦だ。少女がひどい目にあったと思った彼らは、なにも聞かずに少女を引き取り、衣食住を提供した。
 彼らには昔、少女ほどの年齢で亡くなったエリーという娘がいた。少女の名は絵里、偶然にも名前が似ていたからか、夫婦は少女のことを娘のように思っていたのかもしれない。それから少女はエリーと名乗り、この世界で生活を始めた。
 それから半年後、老夫婦は病で二人共に亡くなってしまった。一人取り残されるエリーに、彼らはこの生活の場を譲った。もちろん住む家だけでは生きていけない。どこの世界でも生きていくためには金が必要だった。
 この世界には魔力という力が存在し、エリーは飛び抜けて魔力を多く持っていた。おかげでエリーは魔力を使う仕事を請け負うことができ、いまのところ生活には困らず一人で暮らしていた。
 そうしてこの半年は何事もなく、やっと安寧な生活が送れているとよろこんでいた矢先、角が生えた少年が家の前に転がっていた。エリーは正直なところ、まだこの世界になじんだと自信を持って言えるほどではなく、面倒事には関わりたくなかった。
(とはいえ、放ってはおけないしなあ……)
 この少年がとんでもない凶悪な子どもだという可能性もあるが、エリーは可能性だけで子どもを見殺しにはできなかった。たとえ角が生えていようとも、子どもがこんな寒い中倒れていれば見ないふりはできない。
 その上、服を脱がせてみれば肌には無数の傷跡があり、切り傷もあれば鞭打たれたような跡もあった。幸い顔には傷はひとつもなかったが、ずいぶんと衰弱している。少年がどんな目にあったのかはわからなかったが、エリーはそれが到底見過ごせるものではないことだけはわかった。
(どっちにしても、この子が目を覚まさなきゃなにもわからないんだけどね……)
 少年の長い金色のまつげで縁取られたまぶたはぴくりともしない。だが、抱きしめていることで伝わってくる僅かな動きで、エリーは少年が生きていることがわかった。発見するのが遅ければあのまま少年は死んでいたかもしれないと思うと、エリーは少年の僅かな動きを感じ取れることにほっとした。
(あ。そうだ、角……)
 エリーはどうしても気になって、心の中で謝罪しながら少年の角に触る。作りものなどではない、しっかりとした角だ。その根元に触れ、本当に生えていることがわかる。
(角生えているけれど、きれいな子だなあ)
 体には無数の傷跡があるのに、顔にはまったくないのはなにか理由があるのかもしれない。
「君は何者なのかな~?」
 この少年は何者で、なぜこんな場所にいるのか。少しずつ体温を取り戻し始めている少年を眺め、これからどうなるのかと少し不安を感じながらも、エリーはいつの間にかうたた寝してしまった。

 エリーがまどろみから目覚めると、間近に血のように赤いふたつの目があることに気づく。エリーは驚きに身を仰け反らせるが、椅子の背に阻まれてさがることはできなかった。その目がぐっと近づき、エリーは混乱しながら両手を伸ばす。すると手はその目がはめ込まれている幼く美しい子どもの顔に触れ、エリーは咄嗟にその頬をつかんだ。
(何事?!)
 息がかかるほど間近にある顔は、エリーが一眠りしてしまう前に見た少年のものだ。
「ねえ」
 エリーが驚きに目を白黒させていると、少年は小さな声で彼女に声をかける。エリーは少年に視線を定めると、目が合ってくらりとした。少年はその美しい顔をゆがませ、懇願するかのようにか細い声を絞り出す。
「……お腹が空いたんだ……食べさせて……」
 エリーがなにをと聞く前に少年は自分の顔をつかんでいた彼女の両手をつかみ、とても子どものものとは思えない力で引き剥がした。エリーは驚愕に目を見開き、声を出しかけて口を開いたところを唇で塞がれる。
「ん?!」
 エリーの視界をまぶたを伏せた少年の顔が埋めつくした。この状況に理解が追いつかず、エリーはそれを凝視しながら慌てて離れようとする。だが、少年に両頬をつかまれ、がっちりと顔を固定されて逃げることができなかった。
「んん!」
 エリーは少年の腕をつかんで引き剥がそうとしたが、びくともしなかった。止めるために声をかけようとしたが、口を塞がれていて言葉にならずうめき声にしかならない。少年はまったく気にもせず、舌をエリーの口内に侵入させて彼女の舌をなめた。
(なに、これ……)
 エリーは触れられた舌から甘いしびれが全身に広がり、力が入らずに椅子の背に体を預ける。頭がくらくらとし、顔を固定する手が離されてもなす術もなくされるがままになっていた。散々吸い尽くされてようやく唇が離れると、エリーはぼうっとした頭で恍惚とした表情で息を吐いた少年を眺める。
「ああ……おいしい……」
 エリーはふわふわとした気分になっていた。少年がもう一度唇を唇で塞ごうとゆっくりと近づいてくるのが見えて、エリーはこれはまずいとぐずぐずになっている頭からなけなしの理性を引き出し奮い立たせた。
「まった! だめ!」
 そう叫んだエリーに、不思議そうな表情を浮かべた少年が首をかしげた。エリーは不覚にもかわいいと思ってしまったが、けっしてだまされはしないと自分に言い聞かせる。
「……魔法が、効いていない……?」
「魔法?! なにをかけたの?!」
「……」
(そこで黙らないでよ! 怖いじゃない!)
 少年はきれいな顔をして、凶悪だった。エリーが眠ってしまう前は後ろから抱き抱えられていたはずなのに、いつの間にか体ごと彼女に向いていた。その上、片手でエリーの胸をわしづかみにしている。
「……ともかく、離れて」
 エリーの言葉に少年は再びかわいらしく首をかしげたが、彼女が無言で首を横に振ると少しむくれたように頬をふくらませて後ろに下がる。ふらつきもせず、しっかりと両脚を床につけて立てるほどに回復はしたようで、エリーはほっとしながら椅子から立ち上がった。
 少年が顔を上げると、肩にかかるくらいの真っすぐな蜂蜜色の髪が揺れる。目を閉じているときもきれいな顔であったが、目を開いているいまはもっときれいな顔だとエリーは思う。
(……いやいや、見た目はきれいだけどさ。寝込みを襲うし、人のファーストキスは奪うし、胸をわしづかみにしてきたし……効かなかったとはいえ、良くなさそうな魔法をかけてきたし……! めちゃくちゃ、凶悪だわ!)
 その所業を思い返し、エリーは凶悪な少年だとため息をついた。

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