婚約者がエロゲーの主人公だと思い出したので、婚約破棄を目指したいと思います 【浮気され令嬢は新しい恋に出会えるか編】

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先行配信日:2023/02/24
配信日:2023/03/10
定価:¥990(税込)
伯爵令嬢エリザベスは、婚約者ジルベルトが致している姿を目撃してしまう。
その瞬間、この世界がエロゲーで婚約者が主人公であることを思い出す!
こんな婚約、破棄して、私、エロゲー世界で幸せを手に入れます!
子爵令息ラスティこと実は第三王子のサイラスたちと友人になって、
始まるエリザベスの浮気婚約者とのさよなら奮闘記。
話題の大人気WEB小説、全編改稿でe-ノワール登場!

成分表

♡喘ぎ、二穴、NTR、非童貞、などの特定の成分が本文中に含まれているか確認することが出来ます。

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第一話 浮気、駄目、絶対!


「……ジル様ァァァ」
 逞しい背中に絡みつく細い足、少し癖のある金髪をかき回す手。エリザベスから見えたのは、幼馴染であり大好きな婚約者と、それにしがみつく何かであった。

 エリザベス・ミラー。キャンベル王立学園の普通科に通う十六歳、濃い茶色の髪の毛に黒にも見える濃紺の瞳を持つ彼女は、歴史あるミラー伯爵家の長女で後継者だ。小柄で痩身なせいか、三姉妹の長女であるにもかかわらず、妹たちよりも年下に見られがちだった。性格はおっとりとしており控えめで、社交的で華のある次女、クールで活字中毒の三女に隠れてあまりにも存在感がなく、周りからも地味で小さい子くらいにしか認識されていなかった。
 そんなエリザベスには、三歳の時から婚約者がいた。一つ年上のジルベルト・ストーン、ストーン侯爵家三男で、キャンベル王立学園騎士科の三年生だ。金髪に紫色の瞳の美丈夫で、一八八センチの長身に厚みのある筋肉に覆われた身体はいかにも騎士様というほど男らしく逞しい。エリザベスはそんな彼が昔から大好きだった。
「ハァ……ジル、ジルベルト、アッ……ン」
 昨日の晩作ったクッキーがあまりに美味しくできたから、大好きなジルベルトに食べてもらおうと、約束はしていなかったが放課後騎士科へ足を向けた。騎士科の三年の教室の前に立ったエリザベスは、教室の扉を開けようとして、ジルベルトを呼ぶか細い声にその手を止めた。教室の中からは何やらガタガタと音がし、仔猫が鳴くような声が聞こえてくる。
 エリザベスが音をたてないように扉を少し開けると、見慣れたジルベルトの広い背中が見え、運動でもしているのか壁に向かって身体を前後に激しく動かしていた。
「ジ……」
 ジルベルトに声をかけようとした時、いきなりジルベルトの背中に真っ白な足が絡んだ。そしてジルベルトの髪の毛をかき回す手も。そう、冒頭の場面である。
 ジルベルトが何をしているのか、エリザベスには理解できなかった。ただ、ジルベルトにしがみつく何かは、明らかに女性の物で、よほど長身の女性でない限り、ジルベルトが女性を抱え上げていることだけはわかった。しかも、壁とジルベルトとの隙間はわずかで、かなりの密着度合いだということもわかる。
 激しく動いていたジルベルトの動きが止まり、ジルベルトがわずかに身体の向きを変えた時、エリザベスはバッチリと見てしまった。黒髪の女性とジルベルトの不貞の事実を。
 女の膝裏を肘に引っ掛けるようにし、悠々と抱え上げるジルベルト、女の白い太腿の片方には脱ぎかけの白いショーツがジルベルトの動きに合わせてユラユラ動き、女の太腿は痙攣しているようにひくついていた。女の開かれて露わになった秘部は何やら泡立つように濡れそぼっており、赤黒いジルベルトの肉棒が出入りしていた。ヌチャヌチャと卑猥な音がそこから漏れ、ジルベルトは腰を回すように突き入れたり、浅く深く緩急をつけて出入りしたかと思うといきなり速くピストンしたり、女を抱えているとは思えないほど自由自在に動いていた。
「…………」
 声にならない悲鳴を呑み込んだエリザベスは、両手で口を押さえて後退った。
 十三年、婚約関係にあったジルベルト。小さい時から紳士で、月に一回のお茶会では毎回花束を持ってきてくれた。騎士になると王立学園騎士科に進学を決めた時は、卒業したら結婚式をしようと、手の甲に触れるか触れないかくらいのキスをくれた。エリザベスが王立学園普通科に入学してからは、科が違うとなかなか会えないからと、週に一回昼食を共にするために、月曜日には必ず普通科まで迎えにきてくれていた。
 紳士で優しいジルベルト……。
 ガラガラと今までのジルベルト像が崩れていく。そしてなぜかたくさんの女性と絡む淫らなジルベルトの映像が頭の中に溢れ出す。教室で、裏庭で、屋上で、更衣室で……。
 頭がガンガンとして視界が歪む。
 エリザベスはクッキーの入った袋を強く握りしめ、ヨロヨロとその場を立ち去る。せっかく作ったクッキーが粉々に砕けたが、そんなことに気を回す余裕もなく、ただこの場を離れたくて足を動かした。曲がり角を曲がり階段を降りようとした時、とうとうエリザベスの視界はブラックアウトした。身体に浮遊感を感じたが、それは一瞬のことでエリザベスの意識は暗い闇に落ちていた。

 ★★★

「……本当クソ野郎最低ー」
 各務愛莉は、会社からの帰宅の途中の電車の中で、最近はまっているスマホゲームをしていた。
 愛莉がしているのは、周りに見られるとかなり困る女性向けのエロゲーだ。内容は、王立学園に通う騎士科の男子生徒ジルベルトが、いかに婚約者にバレずに女性を口説けるかというもので、ランク一の下町の平民の娘から始まり、経験を積むごとにランクが上の女性を口説けるようになり、口説くのに成功すると、かなりエロエロな動画を見ることができるのだ。攻略度合いにより、エロ度のランクも変わる。
 婚約者とのプラトニックないかにも紳士然とした映像と、他の女性たちに見せるあまりにクソな映像。そのギャップの激しさに、満員に近い電車の中だというのに、愛莉は思わず「最低ー」と呟いていた。
 まぁ、内容は最低なのだが、その映像のリアルさと声優の質の高さに、ついつい課金しつつ攻略を進めてしまう。
 数ある選択肢の中から、婚約者の好感度を上げつつ、男爵令嬢をなんとか口説き落とし、教室でのご褒美動画が始まる手前でポーズボタンを押した。すでに攻略三サイクル目ともなれば、婚約者の好感度はマックスだし、動画のエロ度も最高級だ。とても電車の中で見れる代物じゃない。画面を隠したとしても、ワイヤレスイヤホンからの音漏れがヤバイだろう。
 愛莉は早く帰って続きを見ようと、最寄り駅で下りて足早に改札を出た。商店街を抜け、人通りの少ない住宅街までくると、前後十メートルに人がいないのを確認した愛莉は、動画を再生させてイヤホンで音のみ楽しむことにした。
 スマホから聞こえる18禁の音声に集中していた愛莉は、周りの音がまったく聞こえていなかった。いきなり背中に強い衝撃を受け、思わずよろけてアスファルトに膝をついた。
「……えっ?」
 途端に背中がカーッと熱くなる。
 振り向くと、手に赤く汚れたナイフを持った女が立っていた。無表情で愛莉を見下ろす女の顔を愛莉は知っていた。二十歳の時から五年間付き合っている彼氏の会社の女性だ。確か三十過ぎの契約社員で、社員旅行の時の写真だという、浴衣姿の彼女が彼氏のスマホのアルバムに入っていたから。
「なんで豊と別れてくれないの」
「は?」
 豊は彼氏の名前だ。最近はお互いに仕事が忙しくてあまり会えていないが、別れ話など出たことはない。あと一、二年したら籍でも入れようかなんて、つい最近電話で話したばかりだ。
「あんたがなかなか別れてくれないから、私とはまだ一緒になれないって……。赤ん坊も今回は諦めてくれって……。あんたが豊にしつこくするから!」
 何を言っているのかわからなかった。背中が脈打つように痛み出し、お尻の方まで何か濡れた感触がする。右手を背中にやると、ヌルリと濡れた。振り返って見た手は真っ赤だった。
 今度はドンッと正面から衝撃を受け、愛莉の視界は真っ暗闇に落ちていった。

 ★★★

「!!!」
 エリザベスはガバッと起き上がった。
 頭が酷く痛んだが、慌てて右手を見る。手には何もついていなかった。恐る恐る背中に手を当て、次にお腹も確認する。血も出てなければ、穴は開いていない。
 エリザベスはクシャッと顔を歪ませた。
 あれは夢だけど、夢じゃない。
 頭の中に、エリザベス・ミラーとしての自分と各務愛莉としての自分の記憶が存在した。エリザベスとして婚約者のジルベルトに純粋に恋慕していたこと、そのジルベルトの不貞の様子が各務愛莉としてはまっていたスマホゲームのエロ動画の中の一場面と同じであったこと。あれはゲーム中盤で、すでに八人攻略済、さらにジルベルトが卒業するまでの一年半の間に七人攻略するはず……ということ。
 エリザベスの婚約者であり初恋の相手ジルベルトは、嘘つきのクズ野郎だった。
 以前のエリザベスであれば、ジルベルトの不貞行為を追及することもできずにただ泣くばかりだっただろう。貴族間では政略結婚が主で、後継となる第一子さえ生まれれば、愛人を囲うことはステータスとされた。結婚前も、女性は貞淑を求められるが、男性は経験を積むことをよしとされている。相手は未亡人や既婚者もしくは平民女性に限られるが。
 顔をしっかり見たわけではないが、ジルベルトの浮気相手は同じクラスの男爵令嬢だったと思う。黒髪の令嬢は珍しく、状況からしても男爵令嬢攻略で間違いなさそうだ。つまりは、未亡人でも既婚者でも平民女性でもない貴族子女に手を出したジルベルトは完璧アウトだ。
 浮気、ダメ、絶対!!
 各務愛莉の意識が激しくジルベルトを嫌悪する。
 夢で見た愛莉の人生最後の日、実は豊の浮気はあれで三度目だった。大学生の時に先輩と、会社員になってから指導係の先輩女性社員と。今まではなんとなく許していたが、さすがに今回ばかりは許せない。社員旅行と言って浮気相手と旅行へ行き、しかも子供までこさえたようだった。愛莉が別れてくれないから結婚できない、子供は諦めてくれと豊に言われたという浮気相手の女に、愛莉は襲われ刺され死亡した……という訳だ。
 今世に豊はいないから、豊への怒りがそのままジルベルトに向かった。

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先行配信先 (2023/02/24〜)
配信先 (2023/03/10〜)