第1話 ツンデレな彼女と、デレデレな彼氏
「ルー、口開けて……」
「うんっ……はぁ……あむ」
ダニエルはルビエラのダークレッドの髪の毛の中に手を差し込み、頭をゆったりと撫でながら至近距離で囁いた。ルビエラが言われるままに唇を微かに開けば、ダニエルの熱い舌がルビエラの口腔内に差し入れられた。舌と舌が絡み合い、お互いを求めるように動き回る。クチュクチュと唾液の混ざる音と、微かな喘ぎ声が響く中、ダニエルの腿を跨ぐように膝立ちになっていたルビエラの腰を引き寄せた。
「あぁ……っ」
引き寄せられた拍子に、ルビエラはダニエルの上に座る形となり、ルビエラの中に半分ほど埋まっていたダニエルの男根がみっちりと全て収まった。
「上手にできたな」
ダニエルが下から腰を回すようにしてルビエラの中を刺激すると、ルビエラはダニエルの首に縋り付いて首を横に振った。刺激が強いから、まだ動かないで……という合図だったのだが、ダニエルはルビエラの腰を掴んで持ち上げ、落とすタイミングで腰を突き上げた。
「ああっ!」
ルビエラの太ももは小刻みに震え、ダニエルを迎え入れている場所も、蠕動運動しているように、ダニエルの男根を締め上げる。ダニエルは射精感をなんとか耐え、ルビエラの大きな胸に吸い付いた。
「あ……まだ……っ!」
ルビエラの震える身体から汗が吹き出し、愛液がダニエルの太ももを濡らした。このままルビエラの意識がなくなるくらい突き上げたい衝動に堪え、ダニエルはルビエラを抱きしめてその胸を堪能するだけにする。それでさえルビエラには過ぎた刺激だったのだが。
「ダン……キスしたい」
ルビエラの可愛い願いに、ダニエルは食いつくようなキスで応えた。百戦錬磨なダニエルも、ルビエラの前では余裕など微塵もなく、十代の若者かというくらいがっついてしまう。
しばらく繋がったままキスをしていたが、さすがに辛抱できなくなったダニエルは、ルビエラの両腿を両手で抱えるように持ち上げ、座ったまま、腰を前後に振り出した。ルビエラはダニエルの首にしがみついたまま揺さぶられ、快感の波から降りることができずに甘い声が止まらなくなる。さすが騎士と言うべきか、ダニエルの無尽蔵な体力に、ルビエラの意識が飛びそうになった時、ダニエルはルビエラの中に白濁を注ぎ込んだ。ダニエルがイクまでの間に、ルビエラは何回達したことか。ルビエラは、ダニエルにもたれかかるようにしてぐったりとなり、重くなった瞼を開けようと目に力を入れるが、睡魔に襲われて自然と瞼が下がってくる。
「ルー」
「……うん?」
「実は次のルーの休みに付き合って欲しいところがあるんだが」
「う……ん?」
「オースティン家のパーティーにパートナーとして参加して欲しいんだ」
「うん……」
ダニエルの声が子守唄のように響いて、ルビエラはダニエルが何か話しているが理解はできないまま返事だけをする。
「ルー、聞いてる?」
「……うん」
ダニエルはルビエラをベッドに横たえると、ルビエラに腕枕をしてその身体を抱きしめた。小さなルビエラは、ダニエルの腕の中にすっぽりと収まってしまい、そのあまりの愛しさにダニエルの下腹部が再度熱を持つ。
それなりに恋愛経験は豊富な方だと自覚していたが、こんなに一人の女性に執着するとは思わなかった。魔力の相性が良いと、お互いに惹かれ合いセックスの相性も良いとは聞いていたが、まさか自分が性欲の塊(ルビエラ限定ではあるが)のようになるとは……。いずれそれが原因でルビエラに嫌われるんじゃないかと不安になるが、ルビエラを前にすると全く制御がきかないのだからどうしようもない。
小さく寝息を立てるルビエラをしっかりと抱きしめながら、そのダークレッドの髪の毛に顔を埋めて、ダニエルも幸せな眠りについた。
★★★
「これはなんですか」
団長執務室の仮眠室(ルビエラが来る以前の団長付き事務官室)に溢れる大小様々な箱に、ルビエラは目を丸くして尋ねた。
先程、ダニエル宛に続々と荷物が届いたのだが、その箱々のラッピングを見ると、ほとんどがハート商会という王都一大きな商会の品物で、一番大きな箱のみララ・ベルトモント衣装店の物だった。
明らかに私物の荷物っぽいものを執務室に置いておくのもはばかられ、仮眠室に一時保管しておいたのだが、荷物が届いたことを知ったダニエルがその箱を開けると、中からドレスが出てきたのだ。衣装店からの荷物なのだから、ドレスが出て来るのは正しいのかもしれないが、明らかに夜会用のドレスに、ルビエラは嫌な予感でいっぱいになる。
ララ・ベルトモント衣装店は、予約が取れない衣装店で有名だったが、ベルトモント夫人がキャンベル王妃と懇意であることから、騎士団の女性事務官の制服のデザインから仕立てまで請け負ってもらっていた。そんなこともあってか、騎士団団長であるダニエルもララ・ベルに伝手があるらしいのだが、明らかにオーダーメイドのそれは、どう見積もっても、ルビエラのお給料一年分以上ありそうな代物で、ドレスにこれでもかと縫い付けてある宝石は、偽物ではなく、本物のブラックダイヤモンドに見える。胸元は繊細なレースで覆われ、スカートは前が短く後ろが長いテールカットになっていたが、前は短いと言っても膝丈くらいなので、全体的に見て露出は少なく上品な仕上がりになっていた。夜会ドレスの主流が胸元や背中をガッツリ出すものが多い中、やや大人しめに見えなくもないドレスを、地味に見せない手腕はさすがララ・ベルと言えるだろう。
「この色……」
落ち着いてシックに見える濃紫色は、恥ずかしいくらいダニエルの瞳の色そのものだった。これをルビエラ以外の女性に贈ったら、それはそれで問題だろうが、ほぼ100%ルビエラへのプレゼントだと思われる。ということは、ここにある明らかにプレゼントらしきラッピングの他の箱も……。
ダニエルのお願いを覚えていないルビエラは、いきなり現れたドレスや諸々の品物に、正直嫌な予感しかしなかった。
「明日のパーティーで着るルーのドレスだよ。いや、間に合って良かった」
「いつそんな話に?」
「やだなぁ、この間お泊まりした時に話したじゃないか。パーティーのパートナーとして出席して欲しいって。ルビエラにOKもらえたから、急いでベルトモント夫人にドレスを仕上げてもらったんだ」
「は?」
以前、ダニエルのお供で舞踏会に出席したことはあった。しかし、キャンベル王国学園を卒業したとはいえ、平民のルビエラが貴族のパーティーに招待されることなどなかった為、そのパートナーが務まるとは思えなかった。貴族の作法を知らないということもあるが、何よりもダンススキルが壊滅的だったからだ。貴族のパーティーと言えば、ダンスありきの舞踏会で、ただダニエルの横に笑顔で立っていれば良いだけではないだろう。
キャンベル王国学園に通っていた時、ダンスの授業もあるにはあったが、実技が赤点でも筆記でカバーできたから、ダンスの猛特訓などしなかった。また、学園で行われたパーティーに平民のルビエラが出席しなくても、ドレスが買えないから来ないんだと勝手に解釈されるだけだから、あえて否定せずに堂々とパーティーを欠席していた。
一度行った舞踏会では、ダニエルのリードが神がかり的にうまかったのと、ダニエルの足を踏むつもりで足を出せと言われたので、なんとなくダンスの形に見えたかもしれないが、実際は優雅とは程遠くドタバタしていたと思う。
「パーティーと言っても、身内やその親しい友人ばかりだから、そんなに気を張らなくていいよ」
「身内?」
ルビエラの眉がひくりと上がる。
曲がりなりにも、ダニエルはオースティン伯爵家の次男で、彼の身内やその友人ならば貴族しかいないだろう。
「めんどくさっ……」
年頃の女子(貴族子女の結婚適齢期は、学園を卒業する十九歳から二十歳くらいで、平民でも二十代前半くらい)ならば、恋人の家族に紹介されると聞けば、結婚を意識されてるんだと喜ぶことだろう。しかし、元から結婚願望皆無のルビエラからしたら、変なしがらみができそうで面倒以外の何物でもない。それに、結婚適齢期を若干過ぎてはいたが、騎士団団長であり伯爵家次男、さらには男の色気全開のダニエルは、いまだ結婚市場で断トツに人気があった。きっとパーティーに来る令嬢達も、ダニエルのことを虎視眈々と狙うだろうし、そのパートナーとなれば、どれだけの悪意を向けられることか。
考えた諸々なことを凝縮したら出た言葉が「めんどくさっ」だったのだが、ダニエルからしたら身内に紹介しようとしている自分に向けられた言葉のように感じて、盛大に落ち込んでしまう。
「ああ……うん、確かに面倒だよな。俺の家族に会うとか……」
大きななりをしてシュンと項垂れるダニエルの頭の少し上に視線をそらせば、彼の前世である旦那様がビシッと背筋を伸ばして何やら執筆中だった。