お一人様で生きていきたいのに、前世の旦那様にロックオンされていて困ります1

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表紙:

先行配信日:2024/10/25
配信日:2024/11/08
定価:¥880(税込)
転属によって王都にある騎士団長付きの事務官になったルビエラ。挨拶しようと入った団長室では男女が熱烈なキスをしていて!?
しかし、それ以上に衝撃的な光景がルビエラの目に入った。
そのキスをしていた男性であるダニエル団長は前世の旦那様だったのだ!

前世を見ることの出来る魔力を持っているルビエラは、仕事ばかりで家庭をかえりみなかった旦那様にも、自分を家政婦としか見ていなかった子供や孫たちにもうんざりし、今世は自分の為に生きる!と誓っていた。
ずっと独り身で生きていくと考えていたものの、前世とは全く違う様子のダニエル団長や、前世では知らなかった旦那様の思い出を見ていくうちに次第に気持ちは変わっていく。

一方で常に女性を口説いているような女たらしのダニエルは、ルビエラに一目惚れをしていた。
これまでの生活とは一変、女性関係を清算し始めたようだがそう簡単にいくはずもなく……?

成分表

♡喘ぎ、二穴、NTR、非童貞、などの特定の成分が本文中に含まれているか確認することが出来ます。

立ち読み
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第1話 ある女の一生と、ある男の一生、そして現在



「こちら、大貫大悟さん。二十三歳。帝都大学ご出身で、今年から同大学で講師として教鞭をふるっていらっしゃいます。こちらは、渡辺茜さん。高等小学校(現在の中学校レベル)を卒業して家事手伝いをしていらっしゃいます」
 お見合いの席、といってもこの時代、女である茜には断る選択肢はなく、ほぼ結婚前の顔合わせのような席であった。
 目の前には、神経質そうで気難しい顔をした男性が一人。目があり鼻があり口がある人間である……、茜の中では造作などは関係なかった。どんなに不細工であろうが、親の決めた相手に嫁がなければならず、今まで家のために行ってきた奉公を、これからは旦那様や旦那様の家のためにするだけだった。
 それでも、生理的に受け付けない相手だったら困る。結婚するということは、旦那様になる相手と子供を作る行為をしなければならないからだ。
 茜は気づかれないくらいさりげなく旦那様になる男の顔を見た。
 身長はかなり高いが、青白い顔に痩せた身体はあまり威圧感はない。ムッツリと不機嫌そうな顔はいただけないが、顔の作り自体は悪くない。目つきが鋭いせいで、常に怒っているような表情になってしまうのだろう。楽しい結婚生活は望めないかもしれないけれど、安定した生活は与えてくれそうだった。
 ならば茜のすることは決まっている。
 快適で過ごしやすい家庭を作ること。旦那様の仕事の邪魔はせず、家のことで煩わせることはしない。後継ぎを作り、その養育に専念する。
 男尊女卑がいまだに残る田舎で育った茜は、結婚に夢も希望も持っていなかった。職業婦人に憧れたこともあったが、女に学問はいらないと高等女学校に上がることも許されず、実家では家事手伝いという名で無給の小間使いのごとくこき使われていた。
 結婚は永久就職ともいうから、これも一種の就職だと割り切ろうと、茜はお古の着物の襟を整えながら考えていた。
 同じくその時、大悟は見た目の表情からは予想できないくらい浮かれていた。
 勉強勉強で過ごした学生時代、今だって周りは男子学生や男の同僚ばかりで、かろうじている女性の事務員といえば若くて四十代後半。大悟の母親と大差ない熟女(本人達談)ばかりだった。
 そんな若い女性に免疫のない大悟の目の前にいるのは、まさに妙齢の女性。小柄で柔らかそうな身体つきに、首筋に落ちたおくれ毛が妙に艶めかしく見えた。ふせられた睫毛は長く、鼻は低めだが女性らしく小さくて、ふっくらとした唇はつい引き寄せられそうになる。
 つまりは、大悟は茜に一目惚れをしたのだ。
 この女性とこれから一生寄り添って生きていくのかと思うと、拳を突き上げて喝采を叫びたい気分だった。
 まったくもって正反対の表情にしか見えないが。
 そんな温度差のある男女が夫婦になり、淡々と日々を積み重ねて家族を増やしていった。
 特に山もない谷もない平凡な生活。五人の子供達が巣立ち、夫婦二人の生活になってからは、殊更に代わり映えのしない毎日が続き、会話がなくても成立する生活が何年も何十年も続いた。
 ある夜、風呂からなかなか出てこない大悟を不審に思い風呂場を覗きに行くと、脱衣所で倒れた大悟がいた。享年八十六、心筋梗塞による病死だった。
 倒れた際に大悟の頭に浮かんだのは茜のことだった。六十三年の結婚生活の中、茜と手を繋いで歩いたこともなければ、二人で旅行なども行ったことはなかった。いつも自分の身の回りを整えてくれているのに、感謝の言葉を伝えたことも、自分がどれだけ茜のことを大事に思っているか、愛しているかを伝えたこともなかった。
 もし伝えることができていたら、茜と笑いながら暮らせただろうか? 茜に男として愛される人生もあっただろうか? 何よりも、茜を幸せにすることができたんじゃないだろうか?
 大悟は死ぬ間際に痛切に後悔した。
 来世というものがあるとしたら、次こそは茜を愛していることを伝えられる違う自分になりたい。そして、何があっても茜を守ることができる強い自分になって、来世でも茜と共に……そんな大悟の願いを聞いている存在がいた。
 大悟が亡くなってからの十年間、茜は穏やかな晩生を送った。孫家族と同居し、なるべく迷惑をかけることなく、共働きの孫夫婦の代わりに家事を行い、でしゃばらず控えめにを心がけた。自分を捨て家族に尽くす生活は、結婚前、結婚後、独りになってからも変わらない茜のライフスタイルだった。
 そんな茜は九十三歳のある日、寝たままの状態で苦しむことなく人生を終えた。大病することもなかった為に、老衰による心不全だった。
「九十三かぁ、いやぁ、めでたいな。大往生じゃないか」
「痴呆もなかったんだろ?」
「ええ、頭も身体もシャンとしてらして、家のこともしてくれていて……」
「明日から夕飯どうすんのー。ばあちゃんいないと、洗濯とか掃除とか誰やるのー」
「パパもママも仕事なんだから、あんたがやんなさい」
「えぇー? あたしー!? 無理無理、部活忙しいしー」
「ちょっと、あんたのばあちゃんは私。ひいばあちゃんでしょ」
「えー、なんだっていいじゃーん」
 茜の通夜の席、親戚一同が集まり賑やかに宴会が行われていた。
 それをフワフワ浮かびながら見ていた茜は、人生で初めて激怒した。
『なんだって良くない! 私は……私の人生はいったい……』
 もし来世があるのならば、曾孫達のように自由きままに、自分のことだけ考えて生きていきたい。私は私らしく、したいことをするんだ。我慢なんかもう沢山だ!
 茜のこの願いもまた、どこかの誰かが聞いていた。
 
 ★★★
 
「ルビー、本当に行ってしまうの? いい人を見つけて結婚した方が良くないかい? うちの息子達なんかどうだい? 都合のいいことに、三人共まだ売れ残ってるよ」
 ルビエラ・オルコット、二十歳になったばかりの社会人二年生だ。
 キャンベル王国学園に平民ながら推薦入学し、文官学科を次席で卒業。王国大学の推薦や中央での仕官の話を蹴って、地元に近い辺境の騎士団の事務官として就職した。唯一の身内であった祖父の介護の為だが、一ヶ月前にその祖父も他界し、ルビエラは以前から打診されていた中央異動の話を受けたのだ。
 祖父がいない今、辺境にはなんの未練もない。友人達もすでに結婚して近隣の町で新しい生活を送っているし、なんなら学生時代の友人達はみな王都にいるくらいだ。
 お隣のマニラおばさんが、太った身体を揺らしてルビエラの袖を引っ張った。
「仕事もあるし、私は一生独りでいいかな。それじゃマニラおばさん、おじいちゃんのお墓もあるし、たまには帰ってくるから」
 結婚なんか冗談じゃない。
 しかも隣のマニラおばさんは、前世の家族達みたいに人をこき使うことを悪いと思わない人種で、その息子と結婚なんかしたら、前世の二の舞いになること間違いなしだ。それに、息子達も横柄で全くこれっぽっちも好きになれない。
 前世……、ルビエラには魔術は使えないが、実は人の前世を見ることができる魔力があった。といっても、常に見えている訳ではなく、見ようと思うと前世のワンシーンがまるで演劇を見るように頭の上に浮かぶのだ。ただ、たまに見ようと思わなくても見える場合もある。波長が合う人間のものは常に見えるし、前世のその人にとって衝撃的なシーンは見たくなくても見せつけられた。自己主張の強い人物の前世は、やはり主張が激しかったりする。
 この魔力のおかげで、自分の前世はとにかく我慢の連続で、家族に尽くして尽くして尽くし倒して死んだのだということを、毎日鏡を目にするたびに見せつけられていた。前世の自分を反面教師にして、今の人生は自分の為に生きたいと、結婚なんかまっぴらごめんだと思うくらいには、この魔力に依存しているルビエラだった。
 それにこの能力は、初めて会った人を見極めるのに役立った。大抵の人は、前世の自分と大差ない性格をしている。たまに人ではない前世の人もいるから、そういう時はアバウトなイメージとして参考にするくらいだが。
 ちなみにマニラおばさんは太った野良猫、長男のトニーはこうるさい金貸し、次男のマニーは藪蚊、三男のラニーは脳筋なボディービルダー、というのが彼らの前世だ。なんとなくだが、そのまんまな人達である。
「じゃあ、馬車の時間があるから」
「そんな、ラニーがもうすぐお昼で戻るだろうから挨拶くらい」
 三男のラニーは同い年なのもあり、そこそこ交流もあった。ルビエラが困らされる意味での交流であるが。
「本当に時間がないの。お墓の管理にはたまに顔を出すから。それまで家とお墓を頼みます」
 ルビエラがマニラおばさんの手に少なくない金貨を握らせると、「お金なんか……」と言いながらも、ちゃっかりポケットにしまいこんで、歩き出したルビエラの背中に向かってわざとらしく泣き喚いた。
「長年面倒を見てやったってのに冷たい娘だよ。ラニーだってあんたに言いたいことがあるだろうに。可哀想なラニー」
 はっきり言って、面倒をかけられこそすれ、面倒を見てもらった記憶はない。それでもお隣さんだから、残した祖父の家のことでこれから迷惑をかけることがあるかもしれない。そう思うと、無下にすることもできずに、ルビエラは立ち止まって振り返った。
「ラニーとは昨日話したんです。だからこれ以上はもう。じゃあ、おばさん、お元気で」
 昨日、ルビエラを引き止めようとするラニーと一悶着あり、実は絶交を言い渡していた。張り手をして股間を蹴り上げるおまけ付きで。ただの喧嘩ではここまでのことはしないから、まぁ何があったかを語るまでもないだろう。
 ルビエラはまだなおギャーギャー言うマニラおばさんに頭をペコリと下げ、馬車乗り場へ向かった。

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先行配信先 (2024/10/25〜)
配信先 (2024/11/08〜)