お一人様で生きていきたいのに、前世の旦那様にロックオンされていて困ります3

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表紙:

先行配信日:2024/12/27
配信日:2025/01/10
定価:¥770(税込)
媚薬騒動が収束して早数ヶ月、王都は5年ぶりにやってくる歌劇団の話題で持ちきりだった。

演劇に詳しくないルビエラは普段と変わらない日々を過ごしていたが、歌劇団のトップ女優であるガーネットがダニエルに接触してきたことで状況が一変。これまでの女性たちとは違い余裕をみせるガーネットの振る舞いに、未だに素直に甘えられないルビエラは内心やきもきしていた。しかし、歌劇団に起こった過去の悲劇、その原因はガーネットに執着する貴族だったことを知ったルビエラは、ダニエルが協力することを受け入れる。

ガーネットをいまだに狙うのはその貴族なのか、それとも……。

成分表

♡喘ぎ、二穴、NTR、非童貞、などの特定の成分が本文中に含まれているか確認することが出来ます。

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第1話 歌姫登場



 媚薬騒動が収束して数ヶ月、王都はすでにその事件は過去のことになっていた。
 今、王都で話題の中心になっているのは、先月からキャンベル王国に来ている歌劇団、劇団緋色が、キャンベル王都で五年ぶりに公演するという話だ。
 拠点となる劇場を持たず、数ヶ月単位で国を転々と移動する劇団緋色は、ある歌姫の登場により全国的に有名になった。むろん彼女の年齢不詳の美貌とまさに黄金比のようなプロポーションも人の目を惹いたが、なによりもその抜群の歌唱力に加え、仮面をかぶったように他人になりきる演技力は秀逸で、舞台に立った十五歳の時から、彼女は劇団緋色のトップ女優の座を今まで維持してきていた。
 すでに二十代半ばも過ぎた年齢らしいが、その美貌に一点の曇りもなかった。
「ガーネットさん、お出かけだったんですか?」
 数日後から始まる公演に備え、劇場の下見をしてきたガーネットは、宿泊する宿屋に帰ってきたところを、劇団員の一人に捕まった。
「あら、イザークはこれから出かけるの?」
「ああ、昼間に会った女子達に誘われたんで」
 イザークは、まだ三年目ながら、ここ数回歌姫であるガーネットの相方に抜擢された団員で、二十歳になったばかりの色男だ。灰色がかった銀髪で、薄い青い瞳、身長はそこそこ高くてスタイルもいい。誰もが振り返る美男子ではないが、整ったすっきりした顔立ちは、女子受けが良かった。黒髪、緋色の瞳のガーネットの横に立つのにちょうどいいという理由だけで選ばれた準主役なのだが、本人は自分の実力だと勘違いしている少しイタイ男だ。
「そう、公演間近だからあまり羽目を外さないようにね」
「ガーネットさんが飲みに付き合ってくれるんなら、行かないすけどね」
 イザークは、計算しつくした笑顔を浮かべると、ガーネットの腰に手を回した。
「私もこの後出かけるのよ。じゃあね」
 ガーネットはスルリとイザークの手から逃れると、嫣然と微笑んでから宿屋の階段を上がって行った。
 その魅力的なヒップラインを下から見上げながら、イザークは軽く舌打ちをする。
 劇団緋色のトップ女優で、団長の次に権限を持つ女だ。しかも見た目は極上ときている。多少年上でも、彼女の情人になれば、劇団でも不動のトップ2になれる筈。イザークのタイプ的には、綺麗系よりは可愛らしい系が好みなのだが、好みの女は公演中だけ遊んで後は捨てれば良いと思っていた。本命は、やはり自分に一番利益が大きい相手に決まっている。故に、入団した時から打算にまみれたアプローチをしているのだが、一度も良い雰囲気になれたことはない。
 イザークは気持ちを切り替えて、今日知り合った女子と約束した酒場へ足を向けた。
 
 ★★★
 
「ダニエル!」
 買い物袋を抱えていたダニエルは、背後から抱きつかれて立ち止まった。隣を歩いていたルビエラも、ダニエルを後ろからギューギューと抱き締める女の突然の襲撃に、ただ唖然としてその光景を眺めた。
 さすがのダニエルも、殺気もなく後ろから抱きつかれたら防ぎようがなかったようだ。
 ルビエラと付き合ってから、ダニエルが前みたいに気軽に女性の要望に添わない(ぶっちゃけセックスしない)ことが周知されたせいか、こういう絡みはなくなっていたのだが……。
「……ガーネット?」
 ダニエルが女を振り払おうとして振り返り、抱きつく人物を見て驚いたようにその名前を呼んだ。
 
 ダニエルの背中に張り付いていた女性が、名前を呼ばれて嬉しそうに微笑んだ。そのあまりの美貌に、ルビエラは目を奪われてしまう。
 同じ人間か!? というくらい小さな顔に、絹のように細く真っ直ぐな黒髪が腰まで伸び、顔立ちは1ミリの誤差もなく左右対称に整っている。造作の美しさは言う必要もないだろう。顔立ちだけでなくスタイルまでパーフェクトで、まさに全てが黄金比で成り立っているような女性だった。
「ダニエル……会いたかった」
 ガーネットと呼ばれた女性は、瞳を潤ませてダニエルに正面から抱きつく。
 美男美女……まるで絵画のように神々しい雰囲気の抱擁に、ルビエラは言葉も出なかった。間に買い物袋さえなかったら、宗教画にでもなりそうな美しさだ。
 うん、完敗です。末永くお幸せに……。
 勝手にダニエルとの関係を完結させたルビエラは、ダニエルの手から買い物袋をサッと奪い取ると、クルリと方向転換して歩き出した。
「ちょっと待て待て」
 ダニエルはガーネットを無造作に引き剥がすと、ルビエラの前に回り込みガシッと肩をつかんだ。
「なんでこの状況で無言で立ち去ろうとするんだ!?」
「頭大丈夫? 目腐ってるんじゃないの?」
「何がだ?」
 まさに絶世の美女のあの女性と、多少新しい制服で見栄えがよくなったとはいえ、チンチクリンの自分。どちらを選ぶかなんて、誰の目にも明らかだろうに。
「では聞きますが、あの美女とダンとはどういうご関係で?」
 家族ならばセーフ、親戚の類ならばギリセーフ、それ以外は……。
 まぁ、見るからにそれ以外っぽいけれど。
「あー、古い知り合い?」
 うん、身体の関係のあった古い知り合いですね。
 ルビエラは、ダニエルの視線の動きから、正しく美女との関係を導き出した。
「あら、期間限定の恋人だった……でしょ?」
 美女は声まで美しかった。声を張っている訳ではないのに通る声、鈴を転がすようなとは、この声の為にあるような言葉なんだろう。
「期間限定って?」
「私、劇団に所属しているの。だから、うちの劇団が王都で公演している間だけの情人ってことね。前に私がここに来たのは五年前。そういう約束で五年前は別れたわ。付き合いはもう十年以上? 付き合ったり別れたりかしらね」
 ということは?
「じゃあ、またあなたが……なにさんでしたっけ?」
「ガーネットよ」
「ガーネットさんが王都に来たということは、ダ……ニエル団長と復縁の予感ということでしょうか?」
「そうねぇ。三ヶ月後にはここを去るから、三ヶ月だけで良かったら、またそうなってもいいわね」
 これほどの美女が三ヶ月とはいえダニエルにつきまとうということは、まぁまぁの確率で浮気確定ではないか。ナターシャもかなりな美人だったが、ガーネットはレベルが違い過ぎる。
「そうですか。わかりました。では、旧交を温めてください。私は先に騎士団に戻ります」
「あら、聞き分けの良い娘ね。ダニエルの部下かしら? じゃあ、ダニエルは借りるわね」
「勝手に人の貸し借りをするな。ガーネット、俺は昔の俺と違うんだ。今はここにいるルビエラと付き合ってて、これから先もルビエラ以外と付き合うつもりはない」
「この娘が今のあなたの恋人?」
 ルビエラはガーネットに見られて、居心地悪そうに身じろぎする。
 大きな丸眼鏡で顔を隠し、さらに長めの前髪は陰気な感じに見えるだろう。せめて髪型を綺麗に整えていればそれなりに見えたのかもしれないが、ただ編んだだけの三つ編みには、女子力の欠片も見当たらなかった。
 誰もが認める色男の隣に、三つ編み眼鏡のチンチクリン女。
 誰がどう見ても、ダニエルの横に並んでしっくりくるのは、ルビエラではなくガーネットと呼ばれた美女だろう。
 というか、それは周りに集まってきた野次馬も同じ気持ちらしく、「あの美人の誘いを断ってるよ、信じらんねぇ」とか、「俺なら今カノより断然前カノっしょ」とか「マジか!? ダニエル団長頭おかしいんじゃん? あれ、劇団緋色のガーネットさんだぞ。ガーネットさんに相手してもらえるなら、俺は嫁も捨てるぜ」などなど、勝手な言い分が聞こえてくる。
「とにかく……ここは人目もあるから、騎士団詰め所に行きましょう。ガーネットさんもダニエル団長とつもる話もあるでしょうし」
「あら、ずいぶん寛容な彼女だこと。でも、そうね。立ち話もなんだから行きましょうか」
 ガーネットは、ルビエラの荷物をダニエルに再度渡すと、ルビエラの腕をとって歩き出す。フワリと匂う花の香りは、少しきつめだがガーネットによく似合う大人の女の色気に溢れていた。

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