好きでいてもいいですか? ひきこもり令嬢に購入された奴隷の話

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先行配信日:2023/01/13
配信日:2023/01/27
定価:¥770(税込)
25歳までに異性と交わらないと賢者の印が現れる世界で――
性奴隷として働くオレと、ひきこもりの24歳伯爵令嬢イザベラ。
破格の大金で購入され、ジャンと名付けられたオレは、
ご主人様を甘く口説くが聖女になりたかった彼女は振り向かない。
抱かれなければならないのに……。抱かなければならないのに……。
ついに訪れた24歳最後の夜、二人は……人気WEB名作、待望の加筆完全版。

成分表

♡喘ぎ、二穴、NTR、非童貞、などの特定の成分が本文中に含まれているか確認することが出来ます。

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 薄暗い私の寝室では、淡く白く月下美人≪げっかびじん≫が花開いている。甘い香りがいつもよりずっと濃厚に感じられた。
 九月初めの温い夜。
 カチカチと無機質な音を立て巡≪めぐ≫るのは、機械仕掛けの惑星だ。
 ガラスケースには、無惨にもピンで張りつけられた美しい昆虫たちが並べられている。
 まるで目の前にいるジャンのようだ。彼は闇の中でも、ほのぼのと光って見える。
 陽だまりを閉じ込めたような琥珀≪こはく≫色の髪のせいなのか。スミレ色の瞳が、朝日が昇る直前のように瞬いた。静かにたたずむ彼は、絵画の中の王子様にしか見えない。
 しかし、ジャンは性奴隷である。私の処女を奪うために雇われた男だ。
 私は、イザベラ・ディ・リッツォ。伯爵家の女主人である。昨年、兄の伯爵が妻とともに事故で亡くなり、残された甥が伯爵家を継ぐまでのあいだ、後見人として伯爵家を切り盛りすることになったのだ。
 この世界では二十五歳までに異性と交わらなければ、賢者の印が現れてしまう。賢者の印が現れたら、賢者・聖女となり家族と別れ、俗世のしがらみを断ち切ることが定められている。
 私は昨年まで聖女を目指して生きてきた。聖女は高貴なる仕事で、あえて目指す者も多いのだ。しかし、兄の死によって、聖女になる夢は諦めざるを得なくなった。
 甥のセシリオはまだ七歳。伯爵を継ぐことはできない。祖父母もいないリッツォ家では私が伯爵を継がなければ、伯爵家は取り潰される。聖女になったら爵位を継ぐことができないのだ。
 そのため、私は町一番の性奴隷を購入し、処女を捨てることにしたのだ。それは、聖女になる夢を捨てることでもあった。
 ジャンに対する初対面の印象は、美しくて軽薄な男。仕事が終わったら、金を払って別れればいい、そう思っていた。
 そう、そのはずなのに――。

 ジャンの唇が私のナイトドレスのボタンを外した。
 胸の鼓動が聞こえそうなほど近い距離に緊張して、息を止める。瞼をきつく閉じて、体を硬くする。
 ジャンのことは信じている。なにしろ町で一番の性奴隷だ。
 でも、初めては怖いのだ。
 私は美しくないことを知っている。
 取るに足りない女だということを。
 どうにか着飾って体裁を保っているが、服を一枚脱いだなら、ただの肉の欠片でしかない。
 そんな醜い自分をさらすのが嫌。
 好きな人に見られるのは嫌。
 そう思う反面、ジャンにしか見られたくないと、そう願うのだ。
 ボタンがひとつ外されるたびに、ひとつずつ暴かれていく私。なすすべもなく震えて、脅えて、きっとジャンは呆れているだろう。
 バサリと服が落ちる音がして、驚いて目を開いた。
 私の上に跨がるジャンが上着を投げ捨てたのだ。
 薄目で彼を確かめる。
 慣れている彼には、こんな私が笑えるだろう、そう思ったのだ。
 しかし、違った。
 ユラユラと揺れるランプの光に、ジャンの髪が照らされて月光のように輝いている。湿りけを感じる肌に、筋肉の膨らみが影を落としている。
 切羽詰まったような真剣な眼差しで彼はゴクリと唾を飲み込んだ。砂漠の中でオアシスを見つけた旅人のように、渇望する目に射られ、私は思わず顔を覆う。
 見てはいけないものを見てしまったという気まずさと、恥ずかしさにいたたまれない気持ちになる。
 ジャンは私の両手を取ると、指と指のあいだに彼の指を差し込んだ。
「オレを見て」
「……いや……」
「……お願いだから」
 泣きそうな声に切なくなって、オズオズと彼を見る。彼のスミレ色の瞳はまるで夜の闇のように蠱惑≪こわく≫的に輝いていた。
「イザベラ……、怖かったら言って」
 ジャンが囁く。私は黙って頷いた。
「痛かったら言って」
「……痛いと言ったら、やめてしまうの?」
 私は尋ねた。
 これはただの肌の触れ合いではない。今夜、私は男と交わらなければいけないのだ。途中でやめられては困る。
 ジャンは一瞬息を呑んだ。そして困ったように目を逸らす。
「……それって、煽ってるんですか?」
 彼の問いの意味がわからず、私は首を傾げた。
 ジャンは困ったように緩く頭を振った。
「痛くないようにするために、教えてほしいんです」
 ジャンは笑った。
「オレの特技はこれだけだから」
 自嘲するような答えに、私の胸はチクリと痛む。
 ジャンは性奴隷として生きてきて、それ以外の生き方を奪われてきたからだ。
「……ごめんなさい」
 私が思わず謝れば、ジャンは小さく笑って私の額に口づけた。
「気持ちよくしてあげる」
「! っジャン!」
 笑いながら落ちてくる唇。
「可愛い」
 ジャンが笑い、瞼にキスが落ちる。
「ここも可愛い」
 鼻先に触れ、耳にキスをしながら可愛いと囁く。キスをするたび「可愛い」と告げる。
 顎をたどって、首筋に。
 そのたびに緊張した体は、必要以上にビクリと跳ねる。まだなにも始まっていないのに、息が上がって恥ずかしくなる。
 そして、ジャンは唇を指でなぞり逡巡≪しゅんじゅん≫した。
「……ここにキスしてもいいですか」
 脅えて震える声は、まるで神への祈りのようだ。
「ええ、……お願いよ、唇に」
 恥ずかしさをこらえつつ言葉にする。
 この一夜が終わったらもう彼には会えない。彼は性奴隷から人になる。もう関わってはいけないのだ。
 だから、最後に本心を振り絞ると、ジャンは泣きそうな顔で笑った。
「っ、あんまり可愛いこと、言わないで」
 むさぼるように唇を奪われて、私はなにも考えられなくなる。
 首筋に、胸元に、キスがたくさん降ってくる。甘い吐息が絡まり合う。
 優しく触れる唇に、丁寧な指先に、愛されているのだと実感する。
 自分でも聞いたことのないような声が洩れる。暴かれていく、私自身が知らなかった私。それを、ジャンは可愛いと愛おしんでくれる。
 素肌の胸と胸がピッタリと重なり合って、体温が混じり合う。あいだの空気がキュッと潰れた。
 こんな私でも愛してくれる人がいるのだ――。
 このまま、時間が止まればいいと、そう思いながら、チクタクと音を立てて巡る星の音を聞いた。
 しかし、時間は止まらない。明日、彼はこの屋敷を出ていくのだ。
 きっと、優しいジャンのことだ。ここにいてほしいとすがれば、そばにいてくれるに違いない。
 でも、それはいけないこと。私にはわかっている。彼を解放してあげなければ。性奴隷から解放され、人としての人生を歩んでもらいたい。人として、自分が本当に大切な人を愛せるように。
 嘘ではなく、心から「好きだ」と言えるようになってほしいから。
 私は私の意志で、引き留めることを諦めた。

 朝の日差しの中、私はジャンを人の世界へと送り出した。
 ジャンが出ていった寝室の片隅では、月下美人の花が醜く萎れていた。
 これが現実なのだと突きつけるように。


◆◆◆


 首につけられた鉄の鎖と、これ見よがしの南京錠。
 オレは奴隷No.1919194。名前はまだない。購入したご主人様が新たにつける。そういうものだ。薄い茶色の髪は蜂蜜にたとえられ、紫色の瞳はブドウ酒にたとえられる。主な仕事は、色恋にまつわることだ。
 いわゆる、性奴隷。

 オレは十八歳にして、すでに三度目の出戻りである。
 けして能力が低いわけではない。その逆だ。能力が高すぎるために、オレを買ったご主人様は恋に溺れてしまうのだ。最終的にオレはご主人様の親族に嫌われて、店に戻されてしまうことになる。
 しかし、それはオレにとって悪いことでもなかった。箔≪はく≫がつくのだ。おかげで、オレはこの町で一番高値の性奴隷である。
 その上、オレが店に戻されるのを待っているお客もいるから、買い手はすぐにつくのだ。そしてよりいい条件で買われることになる。それは生活の安定を意味するし、収入が増えることでもある。奴隷の買い取り金額の半分は、奴隷自身に入るからだ。
 オレの夢は、最終的に自分の権利を買うことだ。奴隷を辞め、安くて低い地位でいいから、貴族の地位を買う。

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