さあ、本音でいきましょう。(下)

著者:

表紙:

先行配信日:2026/01/23
配信日:2026/02/06
定価:¥880(税込)
「もう、なにも隠さないから。ほんと、覚悟して」

ようやく恋人になった怜とユイくん。 初めてのバレンタインに、初めての女子会。そして、寄り添うように暮らす日々――。
当たり前の幸せを噛み締める怜だったが、ユイくんを「嫌いだ」と断言する同僚・猿渡の登場によって、彼の隠された過去と向き合うことになる。

ずっと一緒がいいから、私がじょうずに飲み込んでいれば彼は笑っていてくれるはず。
そう思って本音を隠していたはずなのに、猿渡はしつこくユイくんのことで絡んできて……。
失いたくないからこそ、踏み込まなければならない。二人の恋は、互いのすべてを分け合う覚悟を問われる。

独占欲がだだ漏れのユイくん視点や、亜弥ちゃん先輩のその後を描いた番外編も収録!

成分表

♡喘ぎ、二穴、NTR、非童貞、などの特定の成分が本文中に含まれているか確認することが出来ます。

立ち読み
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 二月。
 長年父と弟へチョコレートをあげていたのもあって、さすがの私もバレンタインの存在は知っている。
 現に、出会ってから去年まで、毎年彼にも市販のチョコレートを渡している。
 もっとも、家族以外でチョコレートを渡したのは、ユイくんがはじめてだ。
 相場もわからないし、チョコレート売り場は女子の甘い雰囲気に気圧されて近づけないしで、コンビニで買うことしかできなかったけれど。
 ホワイトデーは、年々、とても義理チョコだったとは思えないレベルになっていったのも、覚えている。
 去年は、肩こりからくる偏頭痛に悩まされていたところ、枕専門店へ連れていかれて計測したオーダーメイドの枕をもらった。
 八百円弱のチョコレートが、数万の枕になって、すごく困惑した。
 そうだ。彼も一緒に自分の枕を買って、当たり前のようにウチのベッドに置いていって。
 そのあたりから彼はウチに泊まるようになったような。
 今年はさすがにきちんとしなきゃと、昼休みにスマホで検索していると、隣でお弁当を食べていた亜弥さんがとても不機嫌な顔をした。
「怜ちゃん、それはない」
「え? あ、行儀悪かったですね。ごめんなさい」
「それはいい。せめて売り場で選ぼうよ」
「やっぱりそういうもんですか? 去年まではコンビニで買ったチョコレートだったんですけど」
 とても亜弥さんだとは思えない顔をされる。
 大丈夫、まずかったことに薄々気づいていたから。
「怜ちゃんって、お菓子作るの得意?」
「実家にいたころは、母とふたりでよく作っていましたけど」
「じゃあ、一緒に作ろうか」
 にっこりと微笑まれ、少し遅れて頷く。
 そんな経緯があって、週末は亜弥さんの家にお邪魔することになった。
 亜弥さんとは昨日のうちに、すでになにを作るか相談してある。私が材料を買って持っていくかわりに、道具や設備は一緒に使わせてもらうことになっている。
 卵を常温に戻しておいてもらうことと、調理器具はしっかり乾かしておいてもらうことは事前に伝え済みで、材料費は到着前にメッセージで送ってある。
 ユイくん以外の人の家に入るのはもちろん人生初。昨日の仕事帰り、早く帰りたがるユイくんの手をグイグイ引っ張って、記憶にある商業ビルへ向かい、馬鹿の一つ覚えのように、バスボムの手土産を購入した。手慣れたふうを装って、ラッピングをしてもらったものを鼻息荒くドヤ顔でユイくんへ掲げたら、肩を揺らして笑われたけれど。
 亜弥さんはやっぱりうれしそうに受け取ってくれた。
「じゃあこれ、今日の材料費のお金、渡しておくね。一応、金額だけ確認してね」
「はい、では失礼します」
 かわいいポチ袋をあけて金額を確認すると少し多い。
「端数分で失礼かなと思ったけど、教えてもらう授業料だと思って受け取ってくれたらうれしいな」
「ありがたくちょうだいします」
「じゃ、今日はよろしくね、怜先生!」
「や、やめてください!」

 手を洗って、しっかり拭いてから、ボウルに製菓用のタブレットタイプのチョコレートを一気に放り込んだ。
「誘ったのはいいけど私お菓子作り苦手なの。ねえ、怜ちゃん、私、なにすればいい?」
 そうだった。今日の私は〝一緒に作る〟というミッションがあるのだった。
 困惑している亜弥さんに、粉を量ってふるってもらう。昨日、緊張しすぎて眠れなかったから、作り方はしっかりメモしてある。
 オーブンの予熱をスタートし、リズミカルに粉をふるっている姿は、とてもお菓子作りが苦手なように見えない。
 ケトルでお湯を沸かし、チョコレートを放り込んだボウルよりひとまわり小さいボウルにお湯をはって、チョコレートに無塩バターを入れたボウルをそっと重ねる。
「ボウル、逆じゃない?」
「逆だとお湯が入ってしまうので」
「へぇ。怜ちゃん、すごいね」
「私、よくお湯入れちゃって。母がこうするといいよって教えてくれました。さあ、ゴムベラでひたすら混ぜてください。ここが、本日いちばんの重要ポイントです。なめらかツヤツヤな子にしてください」
 真剣な表情で湯煎にかけている亜弥さんの横で卵を割りほぐし、先ほどふるってもらった粉を少しずつ加えてなめらかになるまで混ぜていく。亜弥さんの作業もそろそろいい頃合いだ。
「では、合体させます。亜弥さん、場所チェンジです」
 亜弥さんが泡だて器を持ち、私がチョコレートを少しずつ加えていく。
「怜ちゃん、これ、いつまで?」
「もうちょっと。ちゃんと卵も混ざるまで丁寧にお願いします」
 しっかり混ざったら、今度はゴムベラに変更して、とろりとなったら完成間近だ。
 買ってきた型に薄くバターを塗り、クッキングシートをくっつける。今回は小さなサイズのものをたくさん作る予定だったから、ここからは一気にやる。
「亜弥さん、ここに注ぎ入れてください」
「りょうかい。どのくらいまで?」
「型のフチ一センチくらい下までお願いします」
 注ぎ入れてもらった型たちを、予熱済みのオーブンへと見送り。
「亜弥さん、これ、誰に渡すんですか? って聞いてもいいですか?」
「聞いてるじゃない。まあ、ちょっと。幼なじみ的な」
「渡すときに、レンチン少しするとおいしいよって伝えてくださいね?」
 こくりと頷いた亜弥さんは、しばらくオーブンを眺めていた。
 好きな人に渡すのかな。
 でもさっき、幼なじみと濁されたから、これ以上は聞いちゃダメかな。
 クリスマスのとき、あんなに助けてくれたから、私もなにかできないかな。
「幼なじみがいてね?」
「はい」
「ゆいくんみたいなイケメンではないんだけど、いつも誰かと付き合ってる人なの。私、誰と付き合っても長く続かなくて、別れるたびにその人に愚痴をこぼしていて。変だよね?」
 亜弥さんが、ふふっと笑う。
「少し前までは、義理チョコ渡していたんだけど。今年はどうしても私の気持ちが義理じゃなくて。おかしいね? どうしたんだろ、私」
「おかしくないですよ。思ってることはちゃんと口に出して本人に伝えないと、って、亜弥さんが私に教えてくれました」
「ほんとだ。そうだね」
 相変わらず亜弥さんは笑っているけれど。なんだかいつもと様子が違うような気がする。
「あのね、怜ちゃん……。もし今日、泊まっていってってわがまま言ったら、ゆいくん怒る?」
「……えっと、ユイくんは、そういうことでは絶対に怒りません」
「じゃあ、もう少し話してもいい?」
「もちろんです! 一応、連絡だけしてきます!」
 スマホを片手に亜弥さんの家の玄関を出て、彼に通話をかける。
 とてもとてもドキドキしていた。だって。
『亜弥ちゃん先輩とお出かけしている怜ちゃん、どうしたの?』
 彼の声が、もう私の気持ちを知っているかのように笑っている。
「あのね、亜弥さんの家に、お泊まりしてもいい?」
 生まれて初めて、ユイくん以外の家に泊まるお誘いをいただいた。
『まじかよ。よかったじゃねーか! やべーな。それはしっかり楽しんでこいよ!』
 私よりももっとうれしそうな声が聞こえて、なんだかじんわりした。
「ユイくん。私、ほんとうに、初めての恋がユイくんでよかった」
『うん、それはどーも。亜弥ちゃん先輩によろしく』
「わかった! 亜弥さんとたくさん話してくる!」
 うれしそうでなにより、と笑う声がして、通話が切れる。だめだ、顔が、にやけてしまう。
 急いで亜弥さんのところへ戻って彼からの伝言を話すと、亜弥さんもうれしそうに笑ってくれた。
 小さな型でたくさん作ったフォンダンショコラを、出来たてほやほやで試食して。
 冷やしておいたぶんも試食して。
 亜弥さんの幼なじみの話をたくさん聞いた。
 当たり前のことかもしれないけれど、幼なじみさんは同じ男性でもユイくんとはまったく違っていて、驚くことや真顔になることなんかも、たくさん話した。
 珍しく相手から会いたいと言われたらしく、「なんの用だろうね?」と言いつつもうれしそうだ。
 日曜、幼なじみさんに渡してくると言って、昼過ぎに駅で別れて、私もウチに帰る。
 亜弥さんに教えてもらいながらラッピングしたものは、実はバレンタイン用ではなかったけれど、ユイくんはうれしそうに食べていた。
「俺、手作りもらうのはじめて」
「秒でバレるウソつくなよ」
「いや、ほんと。しかもおまえ、メシだけじゃなくてこういうのも作れたんだ?」
「お母さんとよく作ってただけだよ」
 初めてのお泊まりの話をユイくんにも教えたかったけれど、大半が亜弥さんの恋の話だったから、きっと、こういうのは人に伝えちゃダメなんだろうなと諦めた。
 ただ、亜弥さんと一緒に作ったよ、という話をしていたら。
 亜弥さんからメッセージが届いた。
 気持ちを伝えられたっていう報告だと思って、若干気持ちが浮つきながらメッセージを開いた私は固まった。
「うそだろ……?」
「どうした?」
 からだ中の血液が抜けた気がした。
 なにかの間違いだ。
「けっこん? なんで、亜弥さんじゃないの?」

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