ナルシストで潔癖症な騎士様の嫌われ婚約者になるはずでしたが〈下〉 なぜか溺愛&求婚されています

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先行配信日:2023/03/10
配信日:2023/03/24
定価:¥880(税込)
「お前、今晩俺と……セックスしろ」「……は?」
性格最悪だと思っていたキリシェの気高さを知り、無意識に惹かれるミティナ。
そして傷心中の彼を慰めたことをきっかけに、ついに二人は一線を越える。
だがミティナはキリシェの想いに気づかず、任務の続行を優先。
さらに嫌われるため魔法薬に手を出すが、それによってキリシェから溺愛されて……。
拗れた想いが通じ合い、嫌われ婚約者は幸せな婚約者に――!?

成分表

♡喘ぎ、二穴、NTR、非童貞、などの特定の成分が本文中に含まれているか確認することが出来ます。

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▼19 最高の騎士を決するべく

 大変な事態になってしまった。キリシェから衝撃的な宣言を聞かせられたミティナは、翌日の目まぐるしい展開にそう思った。
 どうやら黒鉄騎士に入るというキリシェの言葉は虚言ではないらしく、彼は朝一番にゼーフェンの元へと向かった。そして理由など特に述べるでもなく、黒鉄騎士に入ると言った彼の言葉を聞いて、ゼーフェンは驚く様子もなくこう言った。
「とにかく、我が君にも聞いてもらいながら話そうか」
 そして現在。なぜかミティナも同席しながら、わざわざレグラ王の前で二人の騎士が問答を繰り返していた。
「本気なんだね、キリシェ」
「そうだ。俺が冗談など言うはずがないだろう」
「でも、俺としては今の形が理想的だと思うけれど。確かにキリシェは黒鉄騎士でもやっていけるだろうけど、だとしたら白銀騎士の隊長は誰がするんだい?」
「代わりなどいくらでもいる。あの程度の仕事をこなせないような無能しかいないのなら、とっくに白銀騎士は落ちぶれている」
 自分がいなくなってもさしたる問題はない。躊躇なくそう切り捨ててしまうキリシェに、話を聞いていたレンネットは慌てた様子で頭を掻いた。
「ですが……キリシェ殿の政務能力は随一です。他の者ではなにかしら遅延や問題が発生するかと」
「やっているうちに慣れる。俺でさえ、最近は仕事が早く片付きすぎて暇を持て余しているくらいなのだ。あの程度、今の隊長補佐でもできるぞ」
 王城内で頻繁にキリシェと顔を合わせたり、彼の帰宅時間が早かったりしたのは、単純に仕事を早くこなしすぎて、キリシェが暇を持て余していたのが理由だったのだろう。
 それにしても、本当にキリシェは何をさせても人並みどころか常人の何倍もできる天才だなと、ミティナは思った。
「キリシェ、思い直してはくれぬか。確かにお前の能力であれば、黒鉄騎士であっても素晴らしい功績を挙げられることだろう。だが」
 ようやくそこでレグラ王が口を開く。騎士ならば王の命令に準じるべきと考えているキリシェならば、レグラ王の呼びかけだけには応えてくれるだろう。なにせ彼は、ミティナとの理不尽な婚約でさえ王命だからと受け入れたのだから。
「白銀騎士の隊長は、お前にしか務まらん。何よりその生命活性の力が、どんな時であろうと王国の中枢には必要なのだ」
 考えを改めろ。そう言われたキリシェはわずかに眉根を寄せる。そして以前と同じであれば、自分の浅慮を認め、王の前に跪きながら今後も白銀騎士としてやっていくと、言うはずだった。
 だが。
「我が君のお言葉も尤もです。俺が白銀騎士でいるほうが都合がいい。ですが」
 険しい表情を浮かべながら、キリシェはまっすぐレグラ王を見つめ返した。その真剣さは、嘘でも冗談でもなく、まさしく彼の正直な感情からくるものだった。
「いい加減、俺を“飾り物扱い”するのは、やめていただきたい……!」
 キリシェの返答にレグラ王は沈黙してしまう。恐らく彼も、これ以上何を言ってもキリシェが考えを変えることなどないと、そう分かってしまったのだろう。
 まさかの展開に、ミティナは顔を青くする。まさか自分が白銀騎士に入らないと言っただけで、こんな大事になってしまうとは思ってもいなかったのだ。
 ここは事態を収めるために、やはり白銀騎士に入ると言うべきか。そう悩んでいると、ゼーフェンが一歩前へと歩み出てくる。
「キリシェの気持ちは分かった。お互い納得することはできなそうだし、ここは決闘で決めるとしよう」
「……望むところだ」
「け、決闘!? そんな、王の許しもなく勝手にそんなことを……!」
 すでにやる気の騎士二人を見て、レンネットが慌てた様子で声を上げる。しかしレグラ王は片手を上げて彼を制すると、静かな声で言った。
「よかろう。此度の要望は、キリシェがゼーフェンに決闘で勝つことができれば、認めるとする」
「ええっ」
「異存はないな、キリシェ、ゼーフェン」
 今までにないほど真剣な表情で、キリシェだけでなくゼーフェンも静かに頷く。いまだに事情を受け止めきれていないのは、レンネットとミティナくらいなものだった。
「では午後より、内密にて二人の決闘を執り行う。場所の確保と人払いの手配をせよ、レンネット」
「は、はい……」
「そして騎士ミティナ」
 ようやく声がかかったミティナは、慌てた様子で背筋を正す。ことの発端が自分にあるだけに、緊張と罪悪感で胃がキリキリと痛み始める。
「お前が見届けるのだ。よいな」
「……拝命いたしました」
 ゼーフェンとの決闘が決まったとたん、キリシェは一礼をすると玉座の間を去っていく。妙に覚悟の決まったその背中を不安げに眺めていれば、ゼーフェンが優しく彼女の肩を叩いた。
「浮かない顔だね」
「ゼーフェン隊長……す、すみません。こうなってしまったのは、私のミスです。こんな大事になるなら、大人しく白銀騎士に入ると言えば……」
「なるほど。それがきっかけだったんだ」
 面目ないと頭を下げれば、ゼーフェンは気にするなとでも言いたげに首を横に振った。
「あまり気にしないで。今回の件はミティナとのことだけが発端じゃない。我が君も含めて、俺たちがずっとキリシェに甘えていたことに原因がある」
「キリシェ殿に、甘えていた……?」
「そう。彼の騎士としての矜持を利用して、彼の意志を無視し続けた。今になってその清算を求められている、それだけなんだよ」
 他にも込み入った事情がある。そう説明するゼーフェンに、ミティナは小さく首を傾げた。
 それに彼は困ったような顔をして笑うと、いつものようにミティナの頭を撫でてくる。
「決闘が終わったら話すよ。きっとミティナも知っておいたほうがいいことだから」
「……分かりました」
 彼女の返事にゼーフェンは満足げに頷くと、仕事に戻ろうと彼女に言った。その言葉に従い、ミティナも決闘が始まる時間まで、心ここに在らずという状態ながらも自分の役目をこなした。
 そして午後。
 本来ならば催しで使用される屋外の決闘場には、当然ながらほとんど人がいない。そしてこれから起こる勝負の苛烈さを表すように、空は暗雲に覆われていた。
 ミティナがゼーフェンと共に薄暗い決闘場を訪れれば、すでにそこにはキリシェの姿があった。
「ミティナ殿はこちらへ」
 レンネットの呼びかけに、彼女はゼーフェンに目配せをすると空席だらけの客席のほうへと駆け寄った。
「他に見届け人はいないんですか?」
 あまりにも殺風景な光景にそう彼女が溢せば、普段よりも険しい表情をして席に着いているレグラ王が答えてくれる。
「白銀騎士と黒鉄騎士は性質上相容れない組織だ。だが、表沙汰に衝突するようなことがあってはならん。だから隊長同士の決闘も、人目には触れさせたくないのだ」
「え? キリシェ殿なんか、日頃からめちゃくちゃ黒鉄騎士を敵視してましたけど……」
「あの程度、可愛いものよ。……そう考えると、やはり白銀騎士の上に立てるのはキリシェしかおらんのだ」
 何やら一人で納得している様子のレグラ王に首を傾げていれば、決闘場の中心に二人の男が歩み寄っていく。
 王国でも最高と呼ばれる騎士が二人、こうして並ぶ姿を見れば、自然とミティナも緊張してしまう。長身のゼーフェンと比べても遜色ない圧を持ったキリシェは、彼女のよく知る人物とは別人のようだった。
(でも、キリシェ殿といえどもゼーフェン隊長には勝てない。あの人の強さは次元が違うんだから……)
「我が王よ、もしもキリシェ殿が勝ってしまったらどうなさるおつもりですか……!」
 ミティナが身に染みついたゼーフェンの異様な強さを思い出していると、不安になってきたのかレンネットが声を上げる。彼の目にも、キリシェの姿がゼーフェンに劣らないように見えたのだろう。
「確かにキリシェも最年少で白銀騎士の隊長になったが、ゼーフェンが隊長になったのは十五のときだ。そして実戦に出たのが十三。いくら天才のキリシェといえども、年季が違うわい」
「そうですよね、そうですよね……?」
「だが……」
 意味深に言葉を切った彼は、いまだに睨み合いを続けている二人へと視線を向ける。
「キリシェが騎士としての誇りを取るか、それとも勝利を取るか、それ次第じゃな」
「ど、どういうことですか……?」
 理解できていないレンネットをそのままに、レグラ王は立ち上がる。そして二人の意思を確認するかのように尋ねた。始める前に言っておきたいことはあるか、と。
 すると、キリシェが一呼吸置いて口を開く。
「この決闘で、俺は魔法を使わない」
「それはずいぶん……不利なハンデだと思うけれど」
「魔法を使えぬ相手に、魔法を使って勝利をもぎ取るような醜態は晒さん。貴様こそ、俺が魔法を使えば手も足も出ないだろう」
 相変わらず不敵に、上から目線で物を言うキリシェに、しかしゼーフェンは優しく微笑む。
「君はこんなときでも、己が矜持を貫くんだね」
「当然だ」
「分かった。それなら、遠慮はしないよ」
 魔法を使わないと宣言したキリシェに、レグラ王は少しだけ沈痛な面持ちで俯いた。その表情の意味が分からずミティナが首を傾げていると、王は顔を上げて片手を挙げた。
「準備はいいな。双方剣を抜け」
 剣が鞘から引き抜かれる音が、静かな会場に響く。絶妙な距離感を保った二人は、ゆっくりと身構えた。
「――始めよ!」

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