公爵騎士様は年下令嬢を溺愛する【下巻】

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先行配信日:2023/12/22
配信日:2024/01/05
定価:¥880(税込)
王国王女の結婚式が終わり、カイルとルーナはファリアス公爵家の領地へ訪れていた。
正式にファリアス公爵の婚約者となり、自身の結婚に向けて準備を始めるルーナ。
日々カイルの人望の厚さを知り、時に彼女を傷つける出来事にも巻き込まれてしまう……。
それでも公爵夫人とした凜とした姿に、か弱いだけの少女の面影は無くなっていた。
「穏やかに過ごせるのはルーナのおかげだ。彼女を愛しているんだ」
飾らない、ただ真っ直ぐな言葉。
互いを尊ぶ想いは、重なり、融け合う。やがてかけがえがない愛情へと育っていく――。
寡黙な騎士団長×薄幸令嬢の優しく育む愛の物語下巻!

成分表

♡喘ぎ、二穴、NTR、非童貞、などの特定の成分が本文中に含まれているか確認することが出来ます。

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 第十三章 領地での滞在

 グレイとミランダ王女の結婚式の後、そのままカイルたちはファリアス公爵家の領地に来た。
 領地のファリアス公爵邸は、街の邸よりも大きく城ほどもあり、ルーナは眼を丸くして馬車から顔を出して見ていた。
 普段この邸を使うことはないが使用人たちは常駐しており、領地帰宅時には、いつでも当主が使えるようになっている。
 馬車が到着すると、邸の前には管理人テオドール男爵夫妻に娘のシャリーを筆頭に使用人たちや領地の者たちが出迎えていた。
 長身に引き締まった筋肉質な身体、誰もが見惚れる端整な顔。黒髪から覗かせる鋭い瞳のカイルが無表情のままで馬車から降り、次にカイルが緊張するルーナを両手で持ち上げて降ろした。珍しい銀髪が淑やかに風で揺れる。
「ルーナ、みなを紹介する」
「はい」
 傍らにルーナを寄せて紹介すると、一斉にテオドール男爵たちが挨拶をしてきた。
「この度はご婚約おめでとうございます」
「みな様ありがとうございます。使用人のみな様も歓迎下さり感謝いたします」
 銀髪碧眼、カイルとの身長差が激しい小柄なルーナが挨拶をすると、その愛らしい姿にみなが和んだ。
「テオドール男爵、すぐに領地の話を聞きたい。書斎でお待ちいただけるか」
 長期の休暇ではないから、カイルはさっそく当主としての仕事に取り掛かろうとしている。
「もちろんです。カイル様、もしよろしければ娘にルーナ様のお相手をさせましょうか?」
 カイルがいないところで何かあっては困るが、ルーナを邸に閉じ込めるわけにもいかず、どうしたものかと思えば、ルーナが察したように話しかけてきた。
「カイル様。私は、シャリー様とお茶をご一緒しますね」
「終われば、すぐに迎えに行く」
「はい、お待ちします」
 ルーナは社交性を見につけようと頑張っている。邪魔はしたくないから、好きにさせてやりたい。そう思えば、カイルは否定することはできない。
 最近は特に結婚を意識し、カイルの妻となるべく頑張ろうとしてくれていると感じている。
 そんなルーナの肩を引き寄せてカイルが大事そうに彼女の額へと唇を落として、少しの間二人は離れた。

 ファリアス公爵領の本邸に初めて来たルーナは、赤い絨毯が敷かれた廊下を見渡しながらサロンへと案内された。
 広いサロンには、品の良い調度品に家具に暖炉。お茶用のラウンドテーブルにはアフタヌーンティーが準備されていた。
「ルーナ様、ご婚約おめでとうございます」
 中年の貴婦人テオドール夫人と二十代前半ほどのシャリーがルーナに祝いの言葉を向けた。
 二人とも同じ黒味のかかった茶色の髪で、毛先が柔らかそうな髪を結わえている。カイルとは似ても似つかない容姿だが、親戚だけあって美人といわれるような容姿だった。
 領地の話をしつつも、テオドール男爵夫人もシャリーも楽しそうに話しかけてきた。
「結婚はいつ頃になりますか? みんな楽しみにしてますのよ。今夜は近隣の貴族を招待していますので、ぜひご一緒下さい」
「まぁ、嬉しいです。それと結婚はまだ少しかかりますね」
 公爵でありながら騎士団長も務めるカイルは有名人で、結婚をすれば話題になることは間違いなく、王女であるミランダの結婚式と被らないようにしているから仕方のないことだった。
「シャリーも早く嫁がなくてはね」
「まぁ」
 テオドール夫人がほほほと笑いながら言う。シャリーは可愛らしく頬を染めていた。
 ルーナがお茶を飲みながら笑顔で聞いていると、シャリーがジッとルーナを凝視している。口角を上げて何か言いたそうな視線に、次の話題はなんだろうかと思いながらお茶のカップを置くとルーナの頭上から影がさした。
「ルーナ、お茶は終わったか?」
 首を少しひねり見上げると、カイルがルーナを挟むように両手をテーブルにつき、覆い被さるようにしてきた。
「カイル様、お仕事終わりましたか?」
「ああ、すんだ。夕食に誘われたから、夜は出かけるぞ」
「はい、私も聞きました」
 カイルが手を出して来たので、ルーナは手を添え立ち上がった。
「叔母上も準備があるでしょう。我々も晩餐の支度に入りますので、そろそろルーナを返してもらいます」
「テオドール夫人、シャリーさん、晩餐を楽しみにしてます」
「おいで」と言うカイルに連れられサロンをあとにすると、本邸の主寝室へと連れて行かれた。続き部屋にはハンナがあれもこれもと詰め、大量になったルーナの荷物が解かれている。たった一週間の滞在なのに、貴族は大変だとルーナは改めて思う。
「疲れてないか? 一週間の滞在だから、せわしいと思うが……」
 カイルが主寝室のソファーに腰かけると、ルーナの手を引いて膝の上に乗せる。
「大丈夫です。晩餐は近隣の貴族の方々も呼ばれているみたいですね。たくさん来られますか?」
「テオドール男爵邸は、ファリアス公爵邸ほどの大きさではないから、あまりは来ないだろう。シャリーとは楽しかったか?」
「シャリーさんはおしとやかな方ですね。カイル様の親戚ですし、お綺麗でした」
「シャリーがおしとやか? 昔とは違う感じだな」
「大人になったから変わられたのでは? 結婚相手を探しているようでしたよ」
 結婚相手という言葉にカイルはため息を吐いた。
「ルーナにも、言っているのか……以前から、結婚の話も第二夫人の話も断っていたんだがな……」
「ええっ!? シャリーさんのお相手はカイル様だったんですか!」
 思わずカイルの胸ぐらを掴んでしまう。まさか、結婚相手はカイルとは思わなかったのだ。
「相手じゃない。叔母上たちとそんな話をしなかったのか?」
「私たちの結婚の日取りを聞かれたり……シャリーさんとカイル様が結婚するとは聞いていませんでした」
「当たり前だ。シャリーとは結婚しない。結婚するのはルーナだけだ。だから、服を離せ」
「す、すみませんっ……」
 ジッとカイルを見上げると、胸ぐらを直すカイルには何の変化もない。
「……もしかして、妬いているのか?」
「妬いている……よくわかりません」
 メアリーの時も多少はあった。でも、あの頃よりもルーナはずっとカイルを意識している。
「第二夫人は取らないと言ったはずだ。信じなさい」
 頬にカイルのキスがくる。首筋へとくれば、短い冬が終わり鎖骨の見えるワンピースドレスは脱がしやすくて、カイルの手がやって来る。
「ダ、ダメですよ! もうすぐでドレスに着替えないといけませんから……」
 首筋のキスのせいで痣ができていたら、晩餐会でなんと返答させるつもりなのか……ルーナは必死で無言のカイルに抵抗するのに、ルーナの腰は捉えられて何度もキスをされていた。

 テオドール男爵邸に到着すると、貴族の面々がすでに来ており、カイルとルーナが最後だった。
「カイル様。お待ちしてましたわ……ずいぶん遅いので心配してましたの」
 華やかなドレスのシャリーが、カイルに近付きながら言う。
(すみません。遅くなったのはカイル様のせいです)
 ドレスに着替えると言うのに、ルーナの服をずらしてカイルはひたすらにルーナを味わっていた。思い出しても何をしていたかは言えなくて、思わずカイルをじろりと睨むが、ルーナでは睨んでも迫力はなく、カイルにはまったく効かない。
「ファリアス公爵、お久しぶりです」
「ジュード様。お久しぶりです」
 カイルと挨拶を交わしたのは、フォード次期公爵のジュード。ルーナに似た薄い灰色の髪は、灰色の瞳にかかるほどの短い髪型。カイルほどではないが、背も高く容姿端麗だと言える。
 何十年か前には、ヘルメイアの村と同じような中立地帯の領地を治める領主だったフォード家は、公爵位と領地を任されることを条件としてフォルレイア王国の一部になった公爵家だった。
 フォード公爵家はミランダの結婚式にも参加しており、王都とフォード公爵領の間にあるファリアス公爵領には、以前から王都の帰りには寄ることが多く、今回もその帰りだった。
 そのため、ファリアス公爵とも、テオドール男爵とも交流のある公爵家だった。
「ジュード様、結婚式では挨拶もせずすみません。フォード公爵はどうされました?」
「父上はまだ王都です。母上と旅行をして帰るそうで」
「ジュード様、気を使わずいつも通りでいいですよ」
「婚約者の方がいるから、丁寧にいきたかったのだが……」
 砕けた口調になった笑顔のジュードは、いつもはカイルのことをファリアス公爵なんて言わない。二十代後半の彼はカイルよりも少しだけ年上で、カイルのことは昔から呼び捨てする間柄だった。
「ルーナ、こちらはフォード公爵家のジュード様だ」
「初めまして、ルーナ・ドワイスです」
「よろしく。ルーナと呼んでもかまわないかな?」
「はい。どうぞルーナと呼んで下さい」
 和やかな挨拶を交わすと、カイルたちが最後であったために、すぐに晩餐が始められた。
 食堂では席も決まっており、ルーナとカイルは隣で座ることはできなかった。主催者の女主人が席を決めるから仕方のないことだった。
 乾杯とともに、優雅な晩餐が始まる。
 カイルの向かいの席にいるルーナの隣はジュードになっており、さっそく二人で楽しく話している。それを、カイルはワインを飲みながら気にしてしまう。
「カイル様。ルーナ様との結婚式はいつ頃とお考えですか?」
 カイルの隣のシャリーがワインを飲みながら聞いてきた。
「ルーナのウェディングドレスを特注で作らせているから、完成すればすぐにでもしたいと思っているが……」
 今はそんなことよりも目の前の二人が気になる。
「まぁ、特注ですか?」
「そうだな。ルーナに似合うものを着せてやりたい」
 ルーナのウェディングドレスは、カイルまでもが楽しみにしている。自分の結婚が待ち遠しいのはカイルにとっては不思議な気分だった。
 その間も、ルーナとジュードは朗らかに会話を楽しんでいる。
「ルーナ。その銀髪はフォルレイア王国では珍しいでしょう?」
「そうかもしれません……でも、母譲りらしいです」
 ほとんどドワイス家から出ることはなかったから気づかなかったが、カイルとあちこち外に出始めてルーナは気づいた。銀髪碧眼の人など誰もいなかったのだ。
「ジュード様の灰色の髪は、少し私と似ていますね」
 少しジュード様に似ているかもしれない。そう思うのは、カイルも一緒だった。
 そう言えば、フォード領は寒さが厳しい土地で、ファリアス公爵領よりもずっと寒い。フォルレイア王国よりも冬が長く続くフォード領は、確かに薄い髪色が多かったとカイルは思い出していた。
「フォード領は、雪降る土地ですからね……色味の薄い髪色が多いのですよ。フォルレイア王国はすでに冬は終わりですが、フォード領はいまだに寒いものです」
「雪はたくさん積もるのですか? カイル様と一度見てみたいです」
 嬉しそうに両手を合わせて言うルーナを見てジュードは微笑んでおり、穏やかな晩餐が進んでいった。

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