帰れない私ともふもふベッド〜甘いささやきが惑わせる~

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カバーイラスト:

先行配信日:2023/12/22
配信日:2024/01/05
定価:¥880(税込)
ある日突然、獣人が暮らす獣人界に異世界転移したハナ。
ひとまず住み込みの仕事を紹介してもらい、黒ヒョウ獣人のクジョウさんのお世話になることに。

はじめは冷たい人に見えたけど、寒くて眠れなかったら一緒に寝てくれて、
甘い声でおやすみを言ってくれる優しいクジョウさん。
元の世界への未練はある。でもクジョウさんに惹かれている自分もいる。

とはいえ私は人間で発情期がないから恋愛対象として見てもらえない……
そう思っていたのにクジョウさんは抱いてくれて――
「すごいね、中、こんなにうねらせて。欲しかった?」
獣人の残るざりざりとする舌で容赦なく責め立てられたら快楽に溺れちゃう!

成分表

♡喘ぎ、二穴、NTR、非童貞、などの特定の成分が本文中に含まれているか確認することが出来ます。

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 本編1 カフェの扉を開けたらそこは獣人の世界でした



 深夜。多分、まだ深夜。眠いから絶対まだ朝じゃない。間違いなく深夜。顔にかかる寝息がくすぐったくて目が覚める。
 頬に触れる手触りの良い滑らかな毛皮。呼吸と共に上下する温かい肌。そして、手の中の……。
「…………」
 薄く目を開けると、黒ヒョウの鼻先が目の前でぴくぴくしていた。
 やだ。私、また握ってる。どうして寝ている間に握っちゃうんだろう。
 欲求不満かなぁ。
 手の中のものをそっと離して、温かな毛皮に擦り寄る。気持ちいい。
 こうしてこの毛皮に包まれて眠るのは何日目になるだろう。途方もない不安に押し潰されそうな私を、温かく包んで癒してくれる、寝ているときは優しいもふもふベッド。
 いったいいつまで続くのか。考えると怖くなる。
 でも、この温もりは私の恐怖を受け止めてくれる。初めて出会った、最初の晩から。
 うとうとと、眠りに沈みながらまた思い返す。
 あの日は、本当に、びっくり、し……た。



「な、んで……?」

 一面に広がる小さな赤い花。冷たい風。どうして? 私、カフェのトイレから出たのよ? なのに、どうして外なの?
 入るときは店内だったわよ?
 キィ、と軋む音がして慌てて振り返った。パタンと扉が閉まった、と思ったらすうっとその扉が……消えた!?
「は……?」
 消え、た……!
 うそ? うそうそ、なにこれ? 信じられる?
 振り返ったとき、まだ扉の向こうにはトイレが見えていた。なのに閉まった途端扉は透き通って、伸ばした手は空を掴んだ。
「何かのびっくり企画……?」
 でも。あったはずの部屋が無くなってしまうなんて……。
 扉が目の前で消えたのよ!? そんなことって、あり得るの?
「寒……」
 風が冷たい。どうしよう。席に置いてきちゃったから上着が無い。どこか、誰か……。
「ここ、どこなの?」
 見覚えの無い景色。こんな広い野っ原、都会ではそうそう無いでしょ。少なくとも近所には無いわ。もちろん、今日出かけたカフェの周辺にだって……。
 怖い。だって、全然分からない。何が起こったの? まさか白昼夢? ここは私の空想の世界……、なワケ無いわ。
 えっと、誰かいないのかな? 迷子になったときはじっとしていろってよく言われたけれど、寒くてじっとなんてしていられない。
 んー。見える範囲に人影なし。すごく静かね。どっちに行けば人がいるのか見当がつかない。家とか建物も見えないし。ん?
「声?」
 なにか聞こえる。誰かいる?
「こっちかな?」
 ううう。寒ーい。ときどき強い風が吹くんだもの。冷たい風が。本当にどこなんだろう、ここ。
 なんでこんなに何にも無いの。
「…………けてー!」
「あ」
 やっぱり声が聞こえる。子供の声っぽい。
「助けてー。誰かいないのー。助けてよー」
 助けて? やだ、緊急事態? 近くから聞こえる気がするんだけど、一体どこから、上?
「え……?」
 ばち、と目があったわ。木の枝の上にいた、子ダヌキと。
 タヌキ? タヌキだ。タヌキって、木に登るっけ。
 いや、そんなことよりも。
 今、しゃべっていたのは、この子ダヌキ?
「……まさかね」
「ニンゲン?」
「わ!」
 やっぱりしゃべった! しゃべったよ? タヌキが! え、あ、ええ!?
 いや、ちょっと待って。
 子ダヌキよ、枝の上でそんなに手足をばたつかせたら落ちるんじゃ……。
 慌てて枝の下に移動したんだけど、余計焦らせちゃったみたい。
「ニンゲンだ! どうしよう! あ!!」
「あっ!!」
 落ちた!
 ああ、言わんこっちゃない。
「――っ!」
 よいしょ! ふぅ、ナイスキャッチ。さすが私。
「いやー! 助けてー!」
「うげ!」
 ちょ! げし、て! 
 せっかく受け止めてあげたのに、蹴飛ばして逃げるとは何事!?
 子ダヌキは私のお腹を力一杯蹴り上げて地面に着地すると一目散に逃げて行ったのよ。なんて恩知らずな。
「あー……、イタタ。なんだったの今の。って言うか」
 やっぱり、しゃべっていたよね? あの子ダヌキ。
 これはちょっと、尋常ではない。
 とりあえず、あの子ダヌキが走って行った方に行ってみる? しゃべるタヌキは相当尋常じゃないけれど、そもそもカフェのトイレから出たらこの野っ原って状況がすでに恐ろしく尋常ではないのだし。
 相手はタヌキだけれど、言葉が分かるってことは意思の疎通ができるってことじゃない? ここがどこなのか教えてもらえないかな?
 あ。ねえねえ。子ダヌキがいるってことはよ? 親タヌキもいるってことよね? ね? そうよ。子ダヌキには無理でも、親タヌキならここがどこで、どうやったら帰れるか説明してもらえるかも。
 よし。そうしよう。あのタヌキを見つけて話をするんだ。
「子ダヌキちゃーん。どこに行ったのー? おねーさん怖いひとじゃないから出ておいでー」
 方向はこっち。だけど、あの子逃げ足速かった。生えてる雑草は背の低いものばかりだから、いればすぐに分かりそうなんだけれど。
「子ダヌキちゃーん。優しいおねーさんにここがどこなのか教えてー」
 んー。いないなぁ。わ、また風吹いた。せめて風を凌ぎたい。
 あれ? これ、道路?
 野原の途中、一本の道があった。雑草を取り除いて砂利を敷いたような、そんな道。
「ん?」
 音がする。車のクラクションみたいな。あ! 馬車? 馬車だ! おーい! 止まって止まって~! 止ま、え!?
 それは荷物を運ぶための荷車的な馬車だったわ。御者、って言っていいのか、馬を制御している男性と荷台部分に女性が乗っていて、女性の腕には小さな女の子が抱かれている。
 おかっぱ頭のその女の子はおっかなびっくり上目遣いに私を見て、すぐに母親らしき女性の胸に顔を押し付けたわ。人見知りみたいで可愛いの。
 だけどね。
 三人とも、頭に丸い耳が。それにふっさふさの尻尾も。
 おまけに着物を着てる。時代劇みたいな。これは一体……。コスプレ?
「娘を助けてくださったそうでありがとうございました。どうぞ、お乗りください。街までご案内します」
 優しそうなその女性は、女の子の頭を撫でながらそう言うと、私を見てにこっと笑ったの。



「まあ、そんなに緊張せずに楽になさって下さいな」
「はあ……」
 畳に座布団。それに緑茶。連れられてきたのは日本家屋みたいな立派なお家よ。「長老」のお屋敷なんだとか。
 お茶を出してくれたのは艶やかな和服姿の美人さん。頭に尖った耳がある。多分だけど、狐なんじゃなかろうか。あっ、尻尾も見えた。先っぽの白い茶色の尻尾。ふっさふさ。
 あの着物、お尻に尻尾用の穴でも空いてるの?
「ずずず……」
 あ、お茶美味しい。はー、あったまるー。
 冷えた指先が湯呑みの熱さでじんじんするわ。
「…………」
 床が軋む微かな音が近づいてくる。と思ったら、すぱん、と勢いよく襖が開いて、入ってきたのは着流し姿のとってもダンディなおじいちゃんだった。

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先行配信先 (2023/12/22〜)
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