添い寝屋キキィと瀕死(?)の騎士さま ~国の英雄は男装の治療師に欲情しちゃったらしい~

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先行配信日:2024/01/26
配信日:2024/02/09
定価:¥770(税込)
国の英雄である騎士リクハルドは、酷いギックリ腰に苦悶している。
だがプライドが高い彼は、魔女の呪いを受けたことにして真実を隠蔽していた。
治療のため現れたのは、艶やかさのある中性的な少年キキィ。
不思議なことに添い寝されると、どんな病も癒してしまうらしい。
真っ先に腰痛を見抜かれ、治療が始まると柔らかな肢体が密着してくる。
「この少年、何かがおかしい……」施術中だというのに欲情してしまうリクハルド。
治療師の胸元に触れると、更なる異変――この柔らかな膨らみは……?
「騎士さまのエッチ! 変態!! 何すんの!?」
少年だと思っていたキキィは、紛れもなく女性だった。

成分表

♡喘ぎ、二穴、NTR、非童貞、などの特定の成分が本文中に含まれているか確認することが出来ます。

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 第一章 国の英雄が瀕死(?)らしい

 王城のすぐそばにそびえる、騎士団の拠点。通称「石の巨人」
 ピリッとした緊張感と石造り特有の冷たい空気が漂う中、騎士服を着た男の慟哭が響いた。そのすぐそばでは、彫刻のように整った顔をした男が、苦しげな表情でベッドに横たわっている。
「お願いだ、リクハルドおおぉぉ! 死なないでくれええぇぇ!」
「すまない、コルネン……。俺がいなくなった後の騎士団を頼むぞ……」
「おまえは国の英雄とまで言われた男だぞ!? 呪いなんかに屈するようなヤツじゃない! だからそんな弱気なことを言わないでくれ!」
「大丈夫。我が国の誇り高き騎士団ならどんな苦境でも乗り越えられる。遠くからおまえたちを見守っているからな」
「あ、あ……リクハルドォォォォ……!!」
 リクハルドと呼ばれた男が力なく微笑むと、騎士服の男――コルネンは再び慟哭し、ベッドの横に崩れ落ちた。
 ――国の英雄、か。
 リクハルドは声には出さずに呟く。
 称号ではないけれど、一介の騎士にとって最高の勲章ともいうべき賛辞。それに恥じぬよう研鑽を積んできたはずなのに、今の自分は剣を握るどころか、起き上がることも、泣き崩れる同僚を慰めることもできない。
「コルネン……。そんなに落ち込まなくていい。運命を受け入れるのが高潔な騎士たるものだろう?」
「いいや! オレはこの運命に抗ってみせる……! オレが何としてでもおまえを治してみせる!! だから待っててくれ!」
 そう言うなり、コルネンは部屋を飛び出してドタドタと廊下を走っていった。
 騒々しい足音が遠ざかって聞こえなくなると、リクハルドはベッドの上で深い深いため息をついた。
(まずいことになったな……)
 リクハルド=クレメラ。彼は二十七歳という若さでありながら、この国の騎士団のエースだ。
 リクハルドは、文武両道で有名なクレメラ家の末っ子として大切に育てられた。十八歳の時に騎士になると、そこからめきめきと頭角を現した。突出した剣技や馬術はもちろんのこと、敵の意表を突くような大胆な戦略を瞬間的に思いついて指示を出す。先の大戦では、彼の小隊が敵将を討ち取るという素晴らしい戦果を上げた。だから彼は王都で「国の英雄」と呼ばれ、羨望の的となっている。
 その上、顔立ちが非常に良く、特に若い女性からの人気は凄まじい。顎まで真っ直ぐ伸ばしたハニーブロンドの髪。センターパートの前髪から覗く、アクアマリンのような淡い空色の瞳。彼が騎乗している姿を見た者は、皆「あれこそまさに王子さま」と口々に噂する。
 そんな英雄がここ最近ベッドから起き上がれず、寝込んでいた。
 それもなんと腰痛で。ぎっくり腰で。
 どんな戦火の中でも優雅に生き抜いてきた彼が、それはもう酷い腰の痛みに悩まされているのだ。
「あがっ!!」
 寝返りを打とうとしたら、雷撃のような痛みがリクハルドを襲った。
(こ、こんな生き地獄が存在するとは……!)
 仰向けに寝ても痛い。うつ伏せに寝ても痛い。立っても歩いても座っても痛い。とにかく何をやっても痛くてたまらない。もしかしたら戦場よりつらいかもしれない。
 どうしてこんなにも彼の腰の状態が悪いのか。それには切実な理由があった。
(才能にも容姿にも恵まれた『国の英雄』が腰痛で寝込んでいるなんて、格好悪すぎて言えるわけがないだろう!?)
 リクハルドは痛みをこらえながら、形のいい唇をクッと噛む。
 由緒正しきクレメラ家で、両親や兄姉からひたすら可愛がられた少年時代。何をやっても「おまえは本当に凄い子だ」と褒められた。やがて騎士となり、上官や同僚から「百年にひとりの逸材だ」と賞賛を浴びた。
 そしてようやく市井にまでその名を轟かせるようになり、街を歩くだけで、あちらこちらから黄色い悲鳴が聞こえる日々。リクハルドはそれはもう鼻高々だった。
 だから、たとえ腰が痛もうとも、「国の英雄」というパブリックイメージを守りたい――。
 リクハルドはそれっぽっちの理由で、腰痛とは申告せずに「警ら中に遭遇した不審な魔女に、謎の一撃を喰らった」と虚偽の説明をしてしまったのだ。
 すると、よりによって同僚のコルネンが「リクハルドが瀕死だ」と大騒ぎ。真っ赤な嘘だったはずが、すぐに騎士団中に広まってしまったのである。
「どうしたものか……うぐぁ!!」
 尻がむず痒くなったので、ちょっと体を浮かそうとしただけなのに、腰に雷が落ちたような激痛が走る。リクハルドの額に脂汗が滲んだ。
 心配するあまり、同僚のコルネンはここ数日、解呪師だの祈祷師だの、なんだかよく分からない職業の人間を連れてくる。しかし原因が呪いではないため、誰に診せても結果は同じ。治療は遅々として進まない。
 しかも無駄に悲壮感を漂わせなくてはならないため、リクハルドは肉体的にも精神的にも満身創痍だった。全ては己のプライドの高さゆえなのだが。
 しばらくすると、再びドタドタと足音が聞こえてきた。きっとコルネンがまた誰かを連れてきたのだろう。頼むから今度こそ医者を――しかも、とびっきり口の堅い人間を連れてきてくれ……! と、リクハルドは心の中で祈った。
 ――してください!
 ――だ……ら、おろ……ってば!
 騒々しい足音に重なるように、高い声が聞こえる。
(なんだ? 女医か? それにしては妙に若い気がするが……)
 リクハルドが注意深く耳を澄ませていると、コルネンが勢いよく扉を蹴破り、部屋に入ってきた。しかも人さらいのように少女……いや、赤髪の少年を小脇に抱え、無駄にカロリーの高そうな声で叫ぶ。
「リクハルドおおおぉっ! やっと! やっと捕まえてきたぞ!! これがあの有名な添【、】い【、】寝【、】屋【、】だ!!」
「つ、捕まえて……!? いや、それはいいとして、なんだ? その添い寝屋というのは」
「もしかして知らないのか? この子は……」
「その前に、まずはぼくを下ろしてくれませんかね!」
 コルネンの腕の中で、少年がジタバタともがく。慌ててコルネンが床に下ろすと、少年の目がキッと吊り上がった。
「この子はなー、王都一番の治療師なんだよ。治せない病気や呪いはないんだってさ!」
 コルネンがそう説明しながら、馴れ馴れしく少年の赤い頭をポンポンと撫でる。撫でられている当人は、至極迷惑そうな顔をしている。その様子は、大して人間に懐いていない猫という表現がぴったりだった。
(治療師……。噂には何度も聞いたことがあるが、実物と会うのは初めてだな)
 リクハルドは少年をまじまじと見つめる。
 治療師とは、この国における医療職のひとつ。医学とは異なる不思議な力を用いて、患者を治療するという仕事だ。
 力は生まれつき備わっているものらしいが、それを使いこなせるか否かは本人次第。そもそも、自分に治療師としての力があることすら気づかないこともあるらしい。だから己の才能に気づき、それを制御できるようになった人間だけが、治療師として生計を立てているという。
(……で、この子が王都で一番の?)
 失礼だが、外見だけではその辺にいる少年としか思えない。
 ふわふわした癖毛のショートカットに、年季の入ったシャツとトラウザーズ。決して身なりがいい方ではない。ただ顔の作りは愛らしくて、アーモンドのような大きな目に小ぶりの鼻と口のバランスが絶妙だった。
「話を戻すが、『添い寝屋』というのはどういうことだ? 屋号か何かか?」
「治療する時に患者に添い寝するから、『添い寝屋』って呼ばれてんだよ。とりあえずこの子が来てくれたらもう安心だ! さあ、リクハルドの呪いを解いてやってくれ!」
「まったく。突然拉致した上に、治せって横暴すぎやしません? こっちはまだ休暇中なんですけど」
 少年の視線がコルネンからリクハルドに移動し、ふたりの目が合う。少年の瞳は藤色で、宝石を散りばめたような虹彩がきらめいていた。
(凄いな。こんな目をした人間がいるのか……)
 これまでいろんな人と出会ってきたけれど、ここまで神秘的な目は見たことがない。リクハルドが食い入るように見つめると、少年は瞳をキュッと細め、胡散臭いものを見るような顔をした。
「それに、これ呪いなんかじゃありませんよ。ただのようつ――」
「ああああ!! 苦しい!! 息が、息ができないいいいいいい!!」
「うわああぁぁぁ! リクハルドぉぉぉぉ!?」
(馬鹿! コルネンの前で『腰痛』という単語を出すな!!)
 少年の言葉を遮るように、慌ててリクハルドが棒読みで悲鳴を上げた。
 コルネンに嘘がバレてしまったら、あっという間に騎士団に……いや、それどころか王都中に広がってしまうだろう。街を警らすれば「腰痛だって」と指をさされ、黄色い声を上げていた女性たちは、みんなリクハルドを見て小声で陰口を叩く――そんな光景が目に浮かぶ。
 本当は少年の口を塞ぎたいところだったが、体が動かない以上、大声で演技するしかなかった。
 すると今回もコルネンには効果てき面。彼は顔面蒼白でガタガタと大きく震えた後、目から滝のような涙を流し――ついでに鼻水まで垂れ流して――隣にいる胡乱な目をした少年に縋りついた。
「添い寝屋ああああ! 頼む!! リクハルドを助けてやってくれえええぇぇ!! こいつがいないと……オレは、オレは……!! うおおおぉぉ!」
 コルネンが鬱陶しいレベルで号泣する。リクハルドを心配する様子といい、根は悪い男ではないのだが、いかんせん大袈裟なのだ。
 縋りつかれた少年はうんざりした様子で赤い髪をガリガリと掻き、これみよがしに盛大なため息をついた。
「あーもう……。分かりました。治療すればいいんでしょ」
「ほんとか!? リクハルドを助けてくれるのか!?」
「ただし、お代はしっかりいただきますからね。あ、ぼくの休暇を邪魔した分も時間外手当として上乗せするんで」
「いいぞ! いくらでも言ってくれ! これでも誇り高き騎士だ! リクハルドを助けるためなら少しも惜しまないからな!!」
「んー、じゃあとりあえず……」
 少年とコルネンがリクハルドに背中を向け、何やらゴニョゴニョと会話をし始める。そしてコルネンが「えっ……」と小さく声を上げた。
 添い寝屋からいくら要求されたのだろう。リクハルドまで詳細は聞こえてこなかった。しかしコルネンのリアクションから察するに、なかなかの金額だったのは分かる。
「はいっ。というわけで交渉成立ですね。今から治療に入るんで、部外者はどうぞ出ていってくださいな」
(本当に交渉成立なのか……?)
 少年は呆然としているコルネンを容赦なく部屋の外に追い出し、ドアを閉めた。そして意地悪そうな笑みをたたえてリクハルドの方を振り向いた。
「さて、と」

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