双子の弟と入れ替わったのに襲われました

先行配信日:2025/04/25
配信日:2025/05/09
定価:¥770(税込)
騎士学校に通う双子の弟が、セクハラを受けていると泣きついてきた。 禁断の恋、しかも相手は女性たちに人気のカイザー先輩!? ネタの宝庫でしかない特大ニュースにユニカはワクワクがとまらない! 弟になりすまして学校へ潜入してみたら……ただいまのキス!? さらに頭を撫でられたりお姫様抱っこをしてきたり……これはホンモノだ。 どうにか女性に興味を持ってもらわないと!とがんばっていた矢先、 うっかりしてカイザー先輩に胸を見られてしまい……!? なりすましと勘違いが大混雑のエロティックラブコメディ登場!

成分表

♡喘ぎ、二穴、NTR、非童貞、などの特定の成分が本文中に含まれているか確認することが出来ます。

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入れ替わり編



1話



 私はユニカ・ラーレ。只今絶賛婚活中のうら若き十八歳。グラチノス伯爵家の長女として、花嫁修行中の身。
 今もレディのたしなみとして、人脈と会話術を育む交流を熱心にしているところ。
「大きいと痛いのよ」
「噂は聞いたことあるわ。大きければ良いということではないみたいですわよ」
「え、では、鼻が大きいとアソコも大きいという見分けは意味がないのですの?」
「ちなみに、騎士学校のデイトナ教官はそれが当てはまるらしいの」
「まあ」
「まあ」
 小鳥がさえずり、色とりどりのチューリップの花が咲き乱れる庭園で白いテーブルに香り豊かな紅茶とスイーツを囲みながら、三人の妙齢の令嬢が「おほほ」「うふふ」と朗らかに笑っていると、大抵こういうことだと思ってほしい。
「あー楽しかった」
 幼なじみの令嬢ふたり、リマとブレンダをお見送りしてからリビングに戻り、目一杯伸びをしてからそのままソファに寝転がると、慌ててメイド長が駆け寄ってきて、捲れ上がったスモーキーピンクのドレスの裾を直してくれた。
「ユニカ様、何かお飲み物をご用意いたしましょうか?」
「ありがとう、大丈夫よ」
 そう言ってお腹を擦ってみせると、年配のメイド長は小言を言いたくて仕方がない顔つきで、それでも耐えて部屋を後にした。できた人だ。
 白壁に白木の格子窓はアーチ状に青々とした庭へせり出し、淡いイエローのレースカーテンには細やかな模様が日光を受け浮かび上がっている。飴色の木製フレームに純白の絹のクッションをあしらったソファは肌触りも弾力も程よく、真っ昼間の惰眠を貪るには絶好の場所だ。
「はーぁ、甘いスイーツでお腹一杯だし、このまま寝ちゃおう」
 そうしよう、と瞼を閉じたところで、ガチャリとリビングの扉が開き、続いて軽やかかつ小気味良い靴音を鳴らしながらやってきた人物がソファを覗き込んできた。
「ユニカぁ」
 だいたい私の名前を呼ぶ時は、泣き言か頼みごとのこの男、二卵性双生児の弟タルダである。
 コバルトグリーンのパッチリ瞳に、アッシュブラウンの髪の毛。筋肉が付きにくい体質なのか、背格好も似ているので、ストレートショートのタルダと癖毛のボブの私、という違いしかないほどのソックリさんが泣きついてくる。なもんで、錯覚のせいか毎回こっちの気分まで落ちる。
「昼寝の邪魔しないでよ。てかタルダ、あんた学校抜け出しすぎ」
 弟のタルダは騎士学校に通っていて、その寮に住んでいるのに、しょっちゅう家に帰ってくるのだ。
「そーゆうユニカだって、しょっちゅう昼寝しすぎ」
「私はほら、気疲れするから。花嫁修行も大変なのよ」
「どーせいつものメンバーで恥ずかしい話ばっかりしてたんでしょ?」
「失礼なっ」
 正解だけども。
「ユニカ、お願いがあるんだけど」
「いやだ」
「まだ何も言ってないのにぃ」
「あんたのお願いで私が得したことがない、ひとつも」
「学校内で起きてる禁断の恋情報に新着あるけど」
「え」
「あと、ユニカたちがお気に入りのカイザー先輩の重要情報仕入れたけど」
「なに!?」
 自分たちのような年頃の令嬢における友情は、甘くて美味しい紅茶と濃くて禁断のお話を分け合うことによって強く結束していくのだ。
 とりわけ、タルダの言うカイザー先輩とは、乙女たちがこぞってときめいたり妄想に加えたりと、とてつもない破壊力を持つ人物である。
 一度、この肉眼で確認したことがあったが、若干一目惚れした。いや、若干どころか涎を垂らさずにはいられないビジュアルと雄々しい性格に、キュンキュン胸が滾ったものだ。
「ユニカ、口の端から涎垂れてるけど、起きてるんだよね?」
「しょうがない。弟の頼みだ、なんでも聞いてあげよう」
 ムクリとソファから起き上がると、なぜかタルダはげんなりしていた。
「ほんとにコレでいいのかなぁ……」
「なにが?」
「ん? あ、いや、こっちの話」
 慌てたようにソファをぐるりと回ってきて、真横に座ったタルダは真顔で見つめてきた。
「今度はなに?」
 若干鬼気迫るオーラを纏ったタルダに仰け反りながら聞くと、その弟の方はさらに前のめりになって言った。
「また入れ替わって欲しいんだけど」
「またあっ!?」
 なにを隠そう、過去に一度、入れ替わって騎士学校に侵入……もとい、単位必須の授業を体調崩したタルダの代わりに受けたことがあるのだ。
 タルダが通う国立騎士学校は、国内の名だたる名家の若者がこぞって入りたがる唯一の国立学校であり、ここを卒業すると必ず国や城の重要職に就け、出世街道まっしぐらなのである。
 騎士学校と言えども、文武両道もしくはどちらかの道に絞る事ができる。弟のタルダは体格や運動センスには恵まれなかったものの頭は良いので、行政に携わる文官を目指して入学した。
 しかし、もちろん競争率も高いので、単位を落としたりすると一気に蹴落とされていくシビアな所でもあるらしい。
 気弱な弟は何かしらで体調を崩しては出戻ってくるので、もう向いてないんじゃないのかと家族でもっぱら心配中である。
「ユニカみたいな神経の図太さがあれば、僕もこんな頼みごとしなくて済むんだけど」
 同じ顔して可愛らしく首傾げられてもムカムカくるだけだ。いや、内容にムカつく。
「ちょっと、頼みごとする姿勢がなってないわよ」
「カイザー先輩の事で困りごとなんだけど」
「なになにっ!? なんでも相談のってあげるっ」
 グワシッとタルダの手を掴んでニギニギすると呆気、いや残念な顔をした弟は一瞬で立て直して軽く咳払いした。
「実は、ここだけの話なんだけど……その、えーと……」
「ちょ、ちょうだいっ、勿体ぶらずにはやくっ」
「いや、勿体ぶってるわけじゃないんだけど……そのー、僕、セクハラ受けてて……」
「……は?」
「そのー、先輩に、狙われてるみたいで」
 念を押すが、タルダの学校は完全なる男子校である。よその国には女性で騎士になる人も稀にいるらしいが、この国ではまだいない。
「ちなみに確認しますが、先輩と言うのは、カイザー先輩のことでよろしいのかしら」
「なんで急にその口調?」
「カイザー先輩に、タルダが狙われている、と」
「う、うーん……」
「仲間入りおめでとうございます」
「なんの!?」
 もうすでにソワソワして仕方がない。こんな特大ニュース、いつまでもひとりで抱えてられない。早く次のお茶会開かなければっ。
「ユニカ、ソワソワしすぎっ。まだ話終わってないよっ」
「あら、御免あそばせっ。でっ? でっ?」
 なぜかこの数分で一気に疲れた顔つきになってしまった弟の肩をユッサユッサと揺らすと、ガクガク頭を揺らしながらもタルダは続けた。
「今期からカイザー先輩と同室になったんだ。それで、言い寄られてて、正直困ってる。だから、寮に戻るタイミングで毎日入れ替わって欲しい」
「毎日っ!? いや無理でしょっ」
 我が邸は学校に近い。だからしょっちゅう弟も帰ってくるのだが、それにしても毎日入れ替わってたらさすがにバレるだろうし、面倒ではないか。
「それ、いつまで?」
「うーん、できれば先輩が諦めてくれるとか、ちゃんとした女性【ひと】を好きになれるまでとか」
「……無茶な……」
 だがしかし、もうひとりの自分はとてもワクワクしている。あの超絶素敵男子を間近で好き放題拝めるやら、男子寮に堂々と忍び込めるやら、とにかくネタの宝庫がキラキラと脳内を埋め尽くしていく。
 まだ見ぬ世界のためにも、
「行くわっ」
 グワシッと再びタルダの手を握った。
「あんたの仇、取ってきてあげるっ」
 煌めかんばかりの熱い視線を向けてやると、やっぱりげんなり感漂う弟の弱々しい視線が明後日の方に向けられていた。


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