どうしようもないアイツ 社会人編&完結編

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カバーイラスト:

先行配信日:2022/10/28
配信日:2022/11/11
定価:¥990(税込)
再会した王子様は夢を追う学生実業家!?(ただのOLの私には眩しすぎる)
しかし、如月浩太郎はやっぱり王子様で、ヘンタイで!……
フった負い目から、無理やりセフレにされてしまった私。
婚約者がいる彼に、快感漬けにされるまで抱かれてしまって……
それでも、夢破れそうな彼のため、せめて初恋は叶えてあげたい!
初恋の相手は誰? アイツと私のハッピーエンド!? 全面改稿+書き下ろし。

成分表

♡喘ぎ、二穴、NTR、非童貞、などの特定の成分が本文中に含まれているか確認することが出来ます。

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第一話 OL生活



 高校を卒業してすぐ就職した。母の知り合いの会社に入れさせてもらったかたちなので、いわゆるコネというやつ。コネっていってもゆっるーい、地元あるあるな感じの「人手が足りないけど雇うなら、よくわからない子よりも知り合いの子を」って流れで決まった。
 小規模な建設会社で、社長夫婦と従業員が十数人。わたしのメインの仕事はひたすら伝票処理で、発注と納品処理を担当するお姉さんの補佐みたいなものだ。時々、他の業務の助っ人というか補佐に回ることもあれど、そこまで難しいと思ったことはない。
 高校時代のパン屋のバイトで、薄々感じてたことがはっきり証明されたんだけど、とにかく数字にわたしは弱い。そんなわたしが伝票処理などできるのかと心配だったが、パソコン触ったり操作覚えることはそんなに苦ではなくって、手元の伝票を打ち込むだけなので、数字を覚えることはしなくていい。……つまり天職だった。わたしはメキメキと上達し、スピードを上げ、無我夢中でキーボードを打つマシーンと化した。
 我ながらカッコいい。就職と同時に髪の毛の色を抑え、ストパーをかけた。化粧も大人っぽく見せるために色を爽やか系にチェンジ。職場の制服は、よくある事務員の紺色ベストとタイトスカートだけど、なにげにOL風の制服に憧れがあったので気に入っている。
 完璧だ。理想的なキャリアウーマンになれた気がする。あんなアホな学生時代を過ごしていたとは、きっと誰も思えないだろう。
「はづきちゃん、そろそろ昼食べよっか」
 大きく伸びをした先輩OLの岡本さんがそう声をかけてくれて、間仕切りで仕切っただけの応接コーナーへ移動する。
 そこで高校生の子供さんがいる岡本さんは弁当を広げ、わたしは通勤途中のコンビニで買っておいたサンドイッチを置く。
「もう、はづきちゃん、今日もコンビニ? 遠慮しなくても作ってきてあげるから、やっぱり今度からそうしましょ?」
 以前から「子供と旦那の弁当作るついでだから」と言ってきてくれてたのだが、さすがにそれは図々しすぎると断り続けているところだ。
「大丈夫ですって、昼だけですから。夜はちゃんと自炊してますよ」
 自炊の内容はともかく、していることには変わりないのでそう言っておく。
「そぅお? なんか娘世代だから、おばちゃん心配になっちゃうのよねえ。ひとり暮らしのほうはうまくいってるの? 変なのが周りにいたりしない?」
「全然大丈夫ですって」
 うちの母親より心配性な岡本さんに、つい噴き出してしまった。
「はづきちゃんは自覚が足りないのよー。こんなかわいらしい子、絶対ひとりでいさせたら危険だわー……」
 岡本さんが、なにも前例がないというのに何かを妄想して険しい表情になっている。
「心配しすぎですって」
「何を言うのやら。この会社の若い子だけじゃないのよ、バイトメンバーだって、はづきちゃん狙ってウキャウキャしてんだから」
「あ、あぁ……」
 それは、確かに自覚ある。てか、それはわたしだからではなくて、この職場に独身の女子が自分だけしかいないからである。社長夫人と岡本さんと、あとわたしだけなんだったらそりゃあウキャウキャなる。
「はづきちゃんは、まだ彼氏いないの? 本当に? 作る気ないって言ってたけど」
「はい、まったく興味なくなりました」
 岡本さんは瞬きしている。そしてなぜか深いため息を漏らしてもいる。
「……もったいないわ……でも、色々あったんでしょうね……そうよね、無理に作るものじゃないわよね」
 どうしよう、また岡本さんの謎の妄想が始まってしまったようだ。
「なーんもありませんからね。ほんとノーテンキに過ごしてきて現在進行形なだけですよー」
 ほんとに我ながらノーテンキな学生時代だったと思う。そこそこ彼氏できてそこそこ青春謳歌して。めいっぱい遊んだことに関しては自信あるし。そんなにつらいことも……。
 フワッと何か浮かび上がりそうになって、慌ててサンドイッチの角にかぶりついた。
 順風満帆だ。これ、最近覚えた四文字熟語。まさにわたしは今、仕事にやる気をみなぎらせ、自分で働いたお金で生活して、時々友達と弾けて、健やかに眠りについて。とっても理想的な生活サイクルを手に入れている。
 だからわたしに彼氏なんて必要ない。てか作りたくない。もう、なにもかも鈍感なままでいたいから。

**

 昼休憩を終え、午後も鬼神のごとくひたすらキーボードと対峙していると、外出先から社長が戻ってきた。五十代でひとのよさそうな柔和な顔をした社長は、その穏やかな顔とは逆に、いつもパワフルにあちこち営業やら現場監督やらと忙しく動き回っているひとだ。
 そんな社長に「お疲れ様でーす」と挨拶すると、片手を上げて「おう、はづきちゃん」と返ってきた。
「十五時にお客さんが来るからよろしくねー。|尊《たける》にも言っておいて」
「はい、わかりました」
 入社した時は、お茶の入れ方も知らなかったひよっこは、三年目ともなると立派に育ちましたよ。お茶っぱをダイレクトに湯呑みに放り込むこともなくなったし、給湯室から応接コーナーに辿り着くまでの間にお盆が水浸しになることもないのだよ、ははは。
 事務所の奥の設計課をノックして入室すれば、一番手前のデスクで社長の息子である尊さんが、難しい顔してパソコンと向き合っている。
「尊さん、十五時に来客だそうです」
 そう伝えると、社長によく似た柔和な顔をニッコリさせた。
「わかった、ありがと」
 まだ二十代前半だけど、この永塩工務店の跡取りとして、只今勉強中で実績をつんでいる最中である。いやぁ、立派な若者だ。わたしが言うなってやつだけど。
 自分の席に戻り、来客の時間までに仕事を進めておこうと両手首、そして指をストレッチさせてからキーボードに対峙した。
 よっぽど集中してたのか、ザワザワとした事務所の気配でパッと時計を見ると、来客を迎える時間だった。入り口を見ると、すでに社長は二階から降りてきていてそのままお客さんふたりを応接コーナーへ案内しているし、尊さんもいた。そして岡本さんがそこからこっちに向かってニコニコ戻ってきていたところだった。
「あっ、すみませんっ! お茶出ししますっ」
「ふふふ、あまりにも集中してるから声かけられなかったわ」
 岡本さんは笑いながら「じゃあ、あとお願いね」と席に着きかけて、コソッと耳打ちするように言った。
「なんちゃって。本当は、ものすごいイケメンだったから、近くで見たかっただけ」
「ええっ?」
 さすがミーハー岡本さん。娘さんの影響で若い俳優さんやアイドルに、わたしよりも詳しいのだけど、多分根本的に好きなんだろな。
 思わず噴き出しつつも、「じゃあ、わたしもしっかり目の保養してきまーす」と、乗ってみせた。
 わたしも彼氏が不要とは言ったが、男に興味がなくなった訳ではない。岡本さんが薦めてくるドラマの俳優さんを見れば「かっこいい!」って思えるし、職場でこっそり「ふたりで飲みに行かない?」と囁かれれば、ちゃんとキュンとする。
 だけどそこまでだ。それ以上進めない。のめり込むことを、わざとしそうな自分が怖い。けどそれだけじゃない、知りたくない感情を認めてしまうのを恐れている。
 もう、どうしようもないのに……。
 四人分の湯呑みをトレイに載せて、応接コーナーに向かう。
 間仕切りの手前で「失礼します」と断りを入れてからお客のふたりにそれぞれ置いていく。軽くお辞儀をされたが、雰囲気的にとても若い感じがする。岡本さんが言ってたから若いだけでなくイケメンなのだろう。
 対面に座る社長と尊さんの前にも湯呑みを置いて、さりげなく視線を上げた。これぞチラ見逃げ戦法だ。
 だけど、わたしは正気を保てなかった。
 茫然自失になるほどのイケメンを拝んだ訳ではない。
 あんなに無理矢理記憶の片隅に封じ込めようとしている、如月浩太郎が、そこにいたからだ。

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先行配信先 (2022/10/28〜)
配信先 (2022/11/11〜)