友人だと思っていた彼と結婚したら突如、狼に豹変しました。

著者:

表紙:

先行配信日:2024/09/27
配信日:2024/10/11
定価:¥990(税込)
「ね、こういうこと、あの男とするのは無理でしょ?
それなら、僕とした方がマシじゃない?」
伯爵令嬢のリリナは二十歳も年上の相手と政略結婚することに。
事情を知った友人のルカが結婚を持ちかけてくれ、
気楽な結婚生活になる――と思っていたのはリリナだけで!?
友人だった頃とは全く違い、甘い言葉を囁いては
初夜から何度も求めてくるルカの姿に驚きつつも
次第に友情とは違う感情がリリナに芽生えてきて――。

成分表

♡喘ぎ、二穴、NTR、非童貞、などの特定の成分が本文中に含まれているか確認することが出来ます。

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 結婚から始まるなんとやら



「病める時も健やかなる時も愛を誓いますか」
 誓いの言葉に、リリナの隣に居た美しい銀髪を持った男が即答した。
「はい。誓います」
 やけに躊躇いなく愛を誓うものだとリリナは感心していた。
 自分の番になったというのに何故か黙り込む彼女に、銀髪の男──ルカ=グリフォンヘイズは、リリナの腕をつんつんっとつつく。
「リリナ」
「えっ、あっ……誓いますっ!」
 慌てて口にしたせいで少し声が上擦ってしまったのが恥ずかしくて顔が朱に染まっていく。
 ――この後は誓いのキスだけれど。どうしましょう。今まで、やれ勉強だ、スケッチだとかで全く経験がないわ……!
 結婚式だというのに、リリナとルカはこれが初めての口付けだった。
 節くれ立った手は男性らしいが、指先は長くて美しかった。リリナの手をすっぽりと包むくらいに大きな手。その綺麗な指がベールに手をかけて、リリナの色素の薄い茶色の髪を撫でるみたいに触れた。
 それから、ゆっくりとリリナの顎にかかる。
「大丈夫だよ、目を閉じていて」
 美しい銀髪の髪に、輝く蒼色の瞳が優しく細められる。リリナのアメジストの瞳に映るのは、目の前の男の姿だけ。
 ――ルカって、こんなに綺麗だったかしら?
 天才芸術家が腕によりをかけて造った彫像のように、一分の隙もない程の美貌。
 形の良い流線を描く眉に、すっと通った鼻筋。こちらを見下ろしているからか、伏し目がちになっていて、長い睫毛が僅かに影を落として、妙な色気を放っている。
「……ぁ」
 ルカの髪が頬にかかり、その蒼の瞳がリリナの唇を捉えた瞬間、彼女はか細い声を漏らした。
 ――見られ、てる? 唇を?
 あまりにも見られているせいか、リリナの方も彼の形の良い唇に思わず見入ってしまう。
 フリとかでも何でもなく、顔が近づいて来たと思えば、彼女の唇に吐息がかかり、柔らかく濡れた感触が唇に触れた。
「んっ……」
 ピクンと指先が彼の式服を小さく掴んだ瞬間、ルカは僅かに震えるリリナの腰を抱き寄せると、そのまま口付けの角度を変えた。
 口付けを深められるのではと思ったけれど、予想とは裏腹に、彼はリリナの唇を軽く食んでから、ちゅっとリップ音を立ててゆっくりと顔を離した。
 ――皆の前でキスしてしまったわ……。
 いや、結婚式なのだから当たり前なのだが、その事実が受け入れられないという意味の分からない心境になってしまっている。
 濡れた感触がいやらしく感じてしまって、胸がドキドキと高鳴ってしまっているのだ。
 ゆっくりと目線を上げれば、今、この瞬間から夫となる彼の姿。
 「どうしたの?」と小声で問いかけられるのだが、その声音が今まで聞いたことのないくらい甘ったるい!
 ――今の今まで良い友だちだと思ってたのに! そんな目をして来るなんて……! どういうことなの!?
 リリナは完全に混乱の最中に居た。
 ルカは学生時代からの友人で、リリナがほんの少しだけ暴走する度に「仕方ないなぁ」と後始末やらフォローをしてくれる悪友であり、親友でもある存在のはずだった。
 この結婚だって、ルカなら悪いことにならないだろうと気楽に受けたものだったが……。
 ――想定外だわ! 想定外すぎる!!
 初めてしたキスのことと、ルカが幸せそうな典型的な新郎みたいな顔をしていることに戸惑っているうちに、一日は過ぎ去っていった。
 パーティ? 挨拶? 今までの淑女教育を駆使して何とかこなしたが、記憶が曖昧だ。
 その夜、色々と混乱の境地に居たリリナは、グリフォンヘイズ家の侍女たちにされるがまま、体を磨かれ、「ここでお待ちください」と豪華な寝室に入れられた。
 ――お待ちください? 何を? というか、この場合はルカを?
 いや、まさか今日突然そんなはずなかろうとリリナはタカをくくっていた。
 ――でも、この夜着、ちょっと、なんか……。
 普通の夜着らしく膝下まで覆っているはずなのに、何故か胸元の周辺は透けた素材で出来ているし、白いフリルリボンを少しでも引っ張れば、するりと解けてしまう。
 その割に下半身はしっかりと覆われているので、これがそういう類の下着かどうか絶妙なラインである。
 でもどちらにせよ、いやらしいのは変わりない。
 ――お待ちくださいって言っていたけど、それってこのまま寝るのは駄目ってことよね?
 どのくらい待てば良いのか。そもそもリリナとルカの関係は、友人関係の延長線だったはずだ。
 手紙をやり取りして、時折観劇に行ったり、乗馬をしたり。
 ――ま、まさか、ルカもいきなりそういうことはしないわよね。
 そうだ。そうに決まっている。
 と、リリナは思っていた。
 バスローブに身を包んだ、色気がダダ漏れのルカが来るまでは。
「お待たせ」
「いえ、待ってないです」
「何で敬語?」
 クスクスと笑いながら、こちらに近付いてくるよく知ったはずの男が、まるで知らない男のように見える。
 リリナはベッドの上で、さり気なく後ろに後退りながら、ルカから目を逸らした。
 ――湯浴み後の男の人って、こんなに色気があるものなの!? というよりも、何故ルカがここに来たの? いやいや、むしろ逆かしら。何故、私はここに居るの!?
「何か混乱しているみたいだね」
 と言いつつも、近づいて来た銀髪の男は、ベッド中央に居るリリナのすぐ隣に腰を下ろすと、手を伸ばして、腰を抱き寄せてきた。
「えっ? 何? いやらしいこと、するの? 今日!? 貴方と? 私が?」
「当たり前でしょ。僕と君は今日から夫婦なのだから。跡継ぎは必要だよ?」
「いや、ええと! 待ってちょうだい!? いずれはそうかもと思っていたけど、いきなり今日?」
「うん。今日」
 肩をとんっと押された瞬間、そのままドサリとベッドの中央に倒されてしまい、リリナが慌てて起き上がる前に、ルカが覆い被さってきた。するりと頬にかかった彼女の髪を指先ですくわれてしまえば、さすがに状況を理解する。
「ちょっ、ええ!? 待って、待って! そんなの聞いてないわ!」
 鼻先が触れそうな距離からリリナを見つめながら、ルカは真剣な眼差しを向けてくる。
「あのね、そんなの聞いてないも何も、リリナ。結婚の意味分かってる? 結婚したら跡継ぎが求められるし、子どもをつくるなら体を繋げて――」
「し、知ってるから具体的に言わないで!」
「じゃあ、しようか。僕たちのことだから、今夜を逃したらそういう機会が一年後とかになりそうだし」
「待って――んっ……」
 待たないと言わんばかりにお互いの唇と唇が重なり合い、息ごと奪い尽くすみたいに口付けられる。
 掴まれた肩から手を離されて、胸元のリボンに手がかけられて、するりと外される。
「んんん!?」
 慌てて胸元を隠そうとしたところで、両手首を一纏めに拘束されて、頭上に縫い付けられた。
 ――片手で!?
 暴れようとすればする程に、口付けは深められていき、ほんの少しの隙をついて、唇の隙間から熱くて柔らかいものがぬるりと侵入する。
「んっ……、っあ」
 くちゅり、といやらしい水音が耳の奥に響いた。
 ――何これ、舌が……。
  唇の隙間を割って侵入してきた男の舌が、まさぐるように口内を犯していく。
 リリナの縮こまった舌に擦り付けられ、舌が絡め取られていく。
「っ…あふっ……、ん……ふぁっ」
「……ん、」
 舌が歯列をなぞり、頬側をも探っていく。息が出来ない。逃げようと顔を逸らそうとすれば、顎を掴まれて固定される。
 いやいやと首を振っているうちに、ゆっくりと舌が引き抜かれた。
「んっ……そんなに嫌がられると、少し悲しいな」
「あっ、う……だって、だって」
 唾液が糸のように繋がって、やがてプツリと途切れた。その淫靡な光景に目の前がぼんやりとゆがんでいく。
「泣かせちゃった分際で何だけど、リリナって泣くと可愛いね」
 そんな嬉しそうに言わないで欲しい。この人はこんなにも変態だっただろうかと、今までの自分の人間観察力の低さに絶望したくなる。
 やっと手首を離されたリリナは目の前の男の胸元を弱々しい力で押した。
「待って、私――」
「リリナ、今日は最後までするから。いつかはするんだし。たぶん勢いで今夜しちゃった方が良いと思うんだよね」
「あっ……!」
 リボンを解かれ、完全に露出した乳房を下から優しく持ち上げられ、ふるんと柔らかく揺れるたわわに実った白い果実。
「……ゃあっ! どこ触って、あっ…だめえ、んっ!」
 左胸の先端のコリコリとした部分を甘噛みされて、熱く柔らかな感触に包まれた。
 ちゅうっと薄紅色の先端を吸い立てられて、慌てて目の前の銀髪を指先で掴む。
「んっ、やあっ……、吸わないでぇ」
 力の入らない手で振り払おうとするリリナのことなどお構いなしに、ルカは乳輪に舌を這わせ、目を伏せながら時折、吸い付く。
 ふるふると震えながら、押し倒してくる男がリリナの知っているルカではないような気がして怖くなった。
 ちゅぱっ……と吸われていた胸から唇が離れると、てらてらと濡れ光る果実は健気に立ち上がっていた。
「ここ立ってて可愛い。吸いやすくなってる」
 吐息混じりの嬉しそうな甘い声が顔の下から聞こえてきて、直後、今度は唇を塞がれる。
 銀色の髪が落ちてきて、リリナの髪と混ざり合う。
「息する時は、鼻でするんだよ。息を止めなくて良いんだよ」
「んっ……ふっ、んっ」
 柔らかく重なる唇に何度もついばまれて、息を共有する。
「リリナ……覚悟を決めて?」
「……」
 ――どうしてこんなことになったのかしら?
 死んだ訳ではないけれど。
 この瞬間、リリナの脳裏には目の前の男との出会いが蘇っていた。それは走馬灯に似ていた。




 始まりはそう、いつも突然に



 リリナ=ブライアントが、ルカ=グリフォンヘイズという男に出会ったのは、聖エルヴィス=エヴァー学園に通い始めた頃。
 入学してから三ヶ月目。この時、リリナは十五歳だった。
「何してるの? 君」
「あっ」
 学園の迷宮庭園。
 美しく咲き誇る薔薇の生垣から離れている上に、リリナは寂れた四阿の裏に居た。
 明らかに普通の令嬢らしくない居場所に一人で佇んでいたというのに、一度も話したことのなかった彼が突然話しかけてきた。
 この時のリリナは、敷物を草の上に敷いて、その上に座り込み、一心不乱にスケッチをしているところだった。
 かけられた声に、顔を上げながら、彼女は応答した。
「……虫のスケッチをしています」
「蜘蛛の巣にかかった蝶が、今まさに捕食されている瞬間を?」
 リリナの目の前では、美しい蝶の羽根が引き裂かれ、蜘蛛が食らいついたところだった。
「……」
 リリナは笑顔のまま、固まった。
 ――この方、令嬢たちの間で話題のグリフォンヘイズ様よね? この間のお茶会で、マリー様やジョセフィーヌ様が熱を上げていた、例の!
 ルカは、名門グリフォンヘイズ侯爵家の長男で次期当主になることが決まっており、成績優秀、文武両道、眉目秀麗、それから性格も良い、お手本のような貴族令息だった。
 美しい白銀のサラサラ髪に、深い蒼の瞳は吸い込まれそうな程に美しいと評判だ。
 女子だけのお茶会では、貴族令嬢は誰かしら彼の話題を出すくらいだ。彼の周りには、可憐な蝶々たちが舞い踊る。
 夜会などではダンスのパートナーとして踊ってもらうべく、着飾ってより美しい令嬢たちが群がるため、その辺り一帯だけ煌びやかな別世界が広がっていた。
 ただ、ルカには婚約者も居なければ、特定の女性の名前が挙がることはなかった。
 そんな今をときめく美しき侯爵令息に目撃されてしまった。
 ここで肯定した瞬間、リリナは虫の捕食シーンを好んでスケッチする変人令嬢として周りに広まることが確定だ。
 嫁ぎ先に影響が出たら、リリナとしては非常に困る。いずれどこかの誰かと政略結婚して、今の家から出る予定なのだから。
 ルカは座り込むリリナを見下ろしたままだ。
「あの、どうかこのことは内密に」
「蜘蛛のお食事のスケッチをこんな人気のない寂れた場所で授業をサボってまで描いていることを?」
「授業は問題ないんです。パターソン先生ですから!」
「確かにね」
 パターソン先生の授業は要領を得ず、ひたすら自慢話に終わることが多いからだ。
 彼も案の定、事情はよく知っているらしく、すぐに納得して頷いている。
「とにかく、そういうことですから。見なかったことに!」
「うん? 言いふらすなんてことはしないよ。それにしても絵が上手い」
 ――あら?
 ドン引きされると思っていたのに、彼はあろうことかリリナのスケッチを覗き込むと、素直に賞賛してきた。
「この蜘蛛の足の毛のビッチリ具合とか、まるで写し取ったようだよね。随分と拘ったんじゃない?」
「分かりますか!?」
「うん。最後に手を加えているし、毛の一本一本に魂を込めてるのは分かった」
 てっきり変な女を見たと言わんばかりの顔をされて呆れられるかと思っていた彼女は、素直な感想に高揚した。
 ――この方、目の付け所が良いわ。私が拘った箇所だもの。
「この蜘蛛の足の立体感を白と黒でどれだけ表現できるかがポイントなんですよ! 色を使っても良いのですが、道具を最小限でどれだけ表現できるかが私の戦いでして! 自然界の理不尽を象ったかのようなテーマに見えるとお思いでしょうが、実はこのシロネバクロネバグモの形状なんか、神が計算し尽くしたかのように精巧で左右対称な――」
「うん。とりあえず落ち着こうか」
 言いたいことをペラペラと口にしたところで我に返った。
 面白そうなものを見るような目で、リリナを見つめ、それから彼は「ふっ」と息を漏らすように笑った。
「まさか噂の金糸雀の歌姫が、こんなに奇天烈なびっくり箱のようなお嬢だとは思わなかったよ」

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先行配信先 (2024/09/27〜)
配信先 (2024/10/11〜)