薊の娘は淫らに眠る

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表紙:

先行配信日:2024/03/22
配信日:2024/04/05
定価:¥880(税込)
小国バルカイルの北方にある青薊・赤薔薇・白百合の3領土は、魔術を使う狼たちによって二百年もの間、常冬の地となっていた。青薊の領土の娘として生まれたローレッタは魔力を操るすべに長けており、これまで続いてきた不文律の婚姻関係によって赤薔薇の領土のオルフェルの妻となった。

青薊の娘として狼たちと戦いながらも結婚して一年、夫とはすれ違いが続いており子だけをせがまれる日々。
オルフェルを愛していたローレッタにとってはあまりにつらく苦しい毎日だったが、ようやく姿を現した狼たちの長たる狼王を倒し冬の時代が終わった。
冬を終わらせるために続いてきた領土間の婚姻の必要性が消え、オルフェルが自分ではなく白百合の領土の神子に優しくしている姿を見てきたローレッタはようやく愛しい人を自由にできるのだと胸を痛ませながらも考えていたが何故かオルフェルに執拗に抱かれはじめ!?

「お前の全てはわたしのものだ。たとえお前が望まぬとも」
優しくされたと思ったら突き放される。オルフェルの心が分からぬまま快楽に身を落とされる中、狼王の首が何者かによって盗まれ――!?
第31回フランス書院官能大賞 e-ノワール賞受賞作品!

成分表

♡喘ぎ、二穴、NTR、非童貞、などの特定の成分が本文中に含まれているか確認することが出来ます。

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 序章 赤薔薇の夫人



 霧に包まれている欠けた月が、館の一室を淡く、白く照らしていた。
 世辞でも豪奢とはいいがたい質素な室内を、微かな月明かりが暴いていく。赤薔薇と呼ばれる伯爵の館にふさわしい真紅のカーテンが窓から入る風に、軽く揺れた。
 赤薔薇領の風は雪交じりで冷たい。だが、眠る娘が寝台から起き上がったのは、それが理由ではなかった。
(来る)
 馴染みのある微かな足音に目を覚まし、部屋のあるじたる娘はそっと、形のよい裸足を真っ赤な絨毯に下ろした。
 月光が、立ち上がった娘の姿を暴き出す。
 光沢のある、背中まで伸びた長い黒髪。細い鼻梁の上には、海にも似た青い双眸がある。明るさと凜々しさが混じった神秘的なおもては、なんのためか、硬く強張っていた。
 娘が寝間着の上からガウンを羽織ったとき、無作法にも合図などなく扉が開く。
「……オルフェル」
 扉を閉じた男――オルフェルと呼ばれた男は、無機質とも冷酷とも見える、それでも確かに端整な顔立ちをそのままに、赤い瞳で寝台に座る娘を見下ろした。
「また子ができなかったな、ローレッタ」
 冷ややかな声音に、娘、ローレッタの顔が悲しそうに歪んだ。
「ごめんなさい、オルフェル」
「青薊【あおあざみ】の娘として嫁いだ義務を、まだお前は果たせぬか」
 嘲笑にも似た酷薄な声が、室内に静かに響く。
 肩を震わせるローレッタをよそに、銀に近い白髪を月光に輝かせたオルフェルが、そっと動いた。
 己のガウン、その隠しから、薔薇の刻印が彫られたナイフを取り出す。
「もう一つの義務は果たしているというのに、我が赤薔薇の子を孕むことだけは成せぬとはな。これでは血を与えるにも値しない」
「そ、それは……困るわ、オルフェル……」
「そういうだろう、お前は。血の加護がなければ戦うことすらままならぬ」
「戦いは青薊【あおあざみ】の仕事よ。私のもう一つの責務だわ。だから、血を……」
 懇願にも似たローレッタの言葉に、オルフェルの眉根が僅かに寄った。だがそれも一瞬のことだ。すぐに無表情となり、ナイフをサイドテーブルに置く。
「血の前にお前へ注ぐのは、子種だ」
「あ……」
 ローレッタを寝台に押し倒し、その上にのしかかるように被さる。
 ガウンを剥ぎ取り、オルフェルはローレッタがまとうシュミーズ越しにその乳房を強く、潰す勢いで握った。
「っ……」
「覚えておけ。お前の全てはわたしのものだということを」
 唇を噛みしめるローレッタの耳元で、オルフェルは小さくささやく。
 夜着の上から胸の突起を摘ままれて、痛みを伴う快感にローレッタの体が大きく跳ねた。
「ん、あっ」
 開いた口から漏れるのは甘い悲鳴。夜着を乱暴に脱がされ、剥き出しとなったローレッタの裸体は白い。だが、そこら中に擦り傷、獣の爪痕などがあり、それを見てかオルフェルは口元だけをつり上げた。
「薊の娘は戦うこと、傷つけることしか知らぬ、とはお前の兄の言葉だったな」
 いささか乱暴に胸を揉み、引き締まった足の間に体を滑りこませながら呟く。
「白百合の神子【みこ】と民を守るためだけに、身を挺して戦うとは結構なことだ」
「それ、が……私……薊の娘の生き方だもの……」
「よかろう。だが、その前にもう一つの義務も果たしてもらうぞ。我が妻としての義務を」
「義務……」
「早く子を孕め。わたしの子を」
 乳房を襲う苦痛に耐えながら、ローレッタは夫が裸になるのを潤んだ視界で見ていた。
 オルフェルの体躯は一見細身だが、程良い筋肉があることを知っている。一年前、妻となったときにはじめて見た夫の裸身は、今でも変わらずに保たれていた。
「ん、っ」
 首筋を噛まれる。口づけもなく、大きめの胸に爪を食い込まされ、ただ捏【こ】ねられた。
 外気のせいか桃色の乳頭はツンと立ち、存在を主張している。それすらも押し潰すようになぶられれば、痛覚に混じって悦楽が否応なしに体を襲う。
「ふあ……!」
 不意に乳首を摘ままれ、指の腹でしごかれた。つい、悲鳴を漏らしてしまう。
 片足を無遠慮に開かれた上、肩に載せられた。秘部が丸見えの状態だ。何度体を交えても大切な箇所を見つめられることは恥ずかしく、未だ慣れない。
 夫の手のひらが自分の体を這い回り、蜜路を塞ぐ肉輪へ伸びた。愛撫はそこを数度、手や指先で撫でられて終わる。
 むず痒さにも似た淫悦は感じるが、法悦に達するという経験はなかった。あるのは辛さと苦しみ、そして目が覚めるような痛みだけ。
「くあ、っ」
 愛蜜も少ししか漏れていない淫筒に、乱暴に指が二本、入ってくる。蜜路を守るために自然と淫液が溢れ、くちゅりと淫靡な音がした。
 細く、長い指が自分の中でうごめけば、言葉にできない感覚をもたらしてくる。
 その指で頬を撫でられたら、どんなに幸せだろう――
 潤む視界の中、唇と唇を重ねられたら、天にも昇る気持ちになるかもしれない――
 叶うはずのない願いに、一粒涙がこぼれる。
「オル……フェル」
 呼気を整え、腕で泣き顔を隠しつつ夫の名を呼んだ。途端、抽送していた指が止まる。
「力を抜け」
「わ、かった……」
 冷徹な声音と共に指が蜜壺から抜かれ、代わりにあてがわれたのは灼熱の塊だ。
 腰を突き出された瞬間、淫路をこじ開けて淫竿が奥へ入ってくる。
「う、く……」
 胎からこみ上げる痛みと苦しさ、両方に震える声が漏れた。
 ぎしりと寝台が軋みを上げる。
 細腰を乱暴に掴まれた。入り抜きが激しくなり、オルフェルの息が荒くなっていくのをローレッタは確かに感じる。彼が達しようとしていることは、いやでもわかった。
 乱暴に、犯されるように抱かれるのは、戦場で傷つくよりも辛いことだ。
「出す、ぞ」
「んんっ……!」
 それでも苦悶の呻きを堪え、オルフェルから注がれる熱い飛沫を胎内に受けた。
 重なっていた体があっさりと離れる。愛の言葉も、労いの言葉もそこにはない。
 少しの間を置き、呼気を正したオルフェルが、テーブルに置かれたナイフを手にする。そしていつものように、自らの親指の腹を薄く切った。鮮血が滴る。
「わたしの魔力をくれてやる。飲め」
 命じられ、横たわっていたローレッタが静かに身を起こす。差し出された指から伝う血を口に含み、唾と共に嚥下すると、青い瞳に恍惚とした光が混じった。
「これで戦えるわ、オルフェル……ありがとう」
「礼はいらぬ。わたしも義務を果たしているだけのことだ」
 にべもない物言いで返すオルフェルは、絨毯に落ちたガウンを拾って着こんだ。
「赤薔薇の妻として、青薊【あおあざみ】の娘として、白百合の神子を守れ」
「……ええ」
 オルフェルとの会話はそれが最後だった。部屋を後にするオルフェルと、夜明けを共にしたことはない。一年間、ずっと。
 たった一つの思い――愛を告げることもできない寂しさ。
 降りはじめた雪と寂寥感に、体を震わせるローレッタの姿を見るのは、誰もいない。

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