呪われ王子は勘違い令嬢を溺愛する

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表紙:

先行配信日:2025/02/28
配信日:2025/03/14
定価:¥880(税込)
貧乏伯爵家とも呼ばれるロディス家の次女シェリル。
使用人も雇えず家事をして家の中を切り盛りしていたところに
舞い込んだのは醜い姿に変えられた「呪われ王子」との縁談で!?
相手が呪われ王子と聞いて嫌がる姉に代わり、
見合い代として貰えるお金目当ての父に頼まれたシェリルは、
王子の住まう離宮へ。

しかし、彼女は呪われ王子についての情報に詳しくなかったため
大きな勘違いをしてしまい……

成分表

♡喘ぎ、二穴、NTR、非童貞、などの特定の成分が本文中に含まれているか確認することが出来ます。

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 第一章 貧乏令嬢、呪われ王子の婚約者になる



 むかしむかし、あるところに。
 聡明叡知、胸襟秀麗、眉目秀麗で、徳高望重な王子様がいらっしゃいました。
 王子様は周りの人々に期待されながらすくすくと育ちましたが、王子様が成人する少し前、王子様の母親であるお妃様がお星様となってしまいました。
 それからしばらく、王子様は勿論のこと、お妃様を慕っていた国民もすっかり元気を失ってしまいます。
 そこで王様は、悲しみに暮れる日々ではなく以前のような楽しい日々を取り戻して貰いたいと、新しいお妃様をお迎えすることにしました。
 そしてすぐに、王子様の弟となる赤ちゃんが生まれたのです。
 王子様も国民も、このおめでたいニュースに、再び活気を取り戻しました。
 ところが大変!
 新しいお妃様は、実は悪い魔女だったのです。
 新しいお妃様は、自分の息子を次の王様とするために、醜い姿になるという恐ろしい呪いを、王子様にかけました。
 新しいお妃様の正体に気づいた王様は、お妃様を処刑して王子様を元の姿に戻そうとしましたが、王子様の呪いは解けませんでした。
 王子様を愛し、そして王子様の愛する人が現れないと、その呪いは解けないのです。
 もともと周りの人々から慕われ、多くのご令嬢たちから愛の告白を受けていた王子様でしたから、呪いは簡単に解けるものだと思われていました。
 けれども、王子様の呪いはなかなか解けません。
 王子様だとわかっていても、お妃様の呪いで醜い姿になってしまった王子様に近づくご令嬢はいなかったのです。
 やがて王子様は落胆し、離宮に移ってひっそりと過ごすようになりました。
 王子様を不憫に思った王様は、何人ものご令嬢をその離宮に送り出しましたが、ご令嬢たちはやはりみんな、醜い姿になった王子様を受け入れることができません。
 そんな、ある日のこと……

     ***

「ちょっとシェリル! あなた、なんでアルキーナのレースが付いていないドレスなんて受け取ったのよ!」
 辻馬車から降りたミレーナは、御者に代金を渡すことも忘れて怒りのままに妹の名を叫ぶ。
 その大きな声は闇夜に響き、立派な装飾の施された扉がキィと軋んだ音を立てながら開いた。栗色の髪と瞳をした女性が慌てた様子で室内から駆け出てくる。
「お帰りなさい、お姉様」
 その姿を一瞥すると、怒りの収まらない様子のミレーナはふんと鼻を鳴らしながら艶のある黒く長い髪を自分の手の甲でさらりとかき上げ、無言のまま高いヒールの靴音だけを響かせてシェリルと入れ違いに家の中へ入った。
「す、すみません、お代を……」
 ミレーナの勢いに圧倒されながらも、気の弱そうな御者がおずおずと運賃を妹にねだる。
「大変失礼いたしました、これで足りますか?」
 シェリルは慣れたように握り締めていた硬貨を渡し、御者は安堵した様子で頭を下げた。
「はい、ありがとうございます。では私はこれで、失礼いたします」
「こちらこそ、姉を無事に届けてくださり、ありがとうございました」
 御者にお礼を伝えたタイミングで今度は室内から怒声が響く。
「シェリル!」
「はい、お姉様」
 名を呼ばれた妹は従順に返事をすると、パタパタと小走りで家の中へ急ぎ戻った。
 シェリルが居間に入ると、姉のミレーナは怒りに任せて父親秘蔵のお酒をグラスに注ぎ、一気に呷っているところだった。
 公爵家で開かれるパーティーに参加して家格の良い結婚相手を見繕ってくるのだ、と姉はウキウキしながら上機嫌でこの屋敷を出発した。その時とは対照的な姿に、シェリルは姉に何があったのだろうかと心配し、どう声をかけるべきか頭を悩ませる。
「シェリルのせいよ」
「はい、お姉様」
 ミレーナの機嫌が悪くなるのはいつものことで、その原因の多くが自分にあることを知っているシェリルは姉の話に大人しく耳を傾ける。
「このドレスは一足遅れの古臭いデザインだって言われてしまったわ。本当に最悪よ」
「まぁ……」
 シェリルはミレーナが身に纏ったドレスを一瞥する。肉親の贔屓目もあるのだろうが、のんびりとした田舎の領地では姉ほど美しい女性を見たことがない。シェリルには全く縁のない美しいドレスは姉のために存在するかのようで、姉のスタイルの良さをより際立たせ、とても似合って見えた。
 しかし、そんな自慢の美しい姉ですらもひとたび上流貴族の集まるパーティーへ参加すれば、色々言いがかりをつけられてしまうようだ。
 シェリルは姉が自分のせいで嫌な目に遭ったと知って、胸を痛めた。
 首都で流行ったデザインが田舎の領地に辿り着くまで時間差があることを知っていたので、豊かな商家の生まれでありミレーナの恋人候補でもあるカシューに、姉に一番似合う流行りのドレスを準備するようお願いした。しかし、どうやら首都での流行は更にその先まで進んでいたようだ。
 アルキーナのレースという言葉は初めて聞いたので、恐らくパーティーで姉が覚えてきた最新の流行りだと思われる。
「申し訳ありませんでした、お姉様」
 パーティーの主役になるのだと意気込んでいた姉の目的が叶わなかったのは自分のせいだと、シェリルは頭を下げた。
「ほんとよ。あの人たち、そういうことだけは目を光らせてチェックしてくるのだから、こちらはたまったものではないわ」
「大変な方々から注目されてしまいましたね」
「注目……そうね、注目されたのね。まあ、私はどこにいても目立ってしまうから」
 シェリルの言葉にやや機嫌が上向きになったミレーナは、「ところでシェリル、お腹が空いたわ。さっさと夕食の準備をして」と話題を変えた。
「パーティーで、お料理は振る舞われなかったのですか?」
 公爵家のパーティーの招待状をひらひらとさせながら、家では食べられない豪華な食事をあなたの分まで食べてくるわね、とミレーナが言っていたことを思い出したシェリルは、キョトンとしながら思わず素朴な疑問を口にする。
 そしてミレーナにギロリと睨まれて、それが失言だったことを知った。
「パーティーに参加したことがないあなたにはわからないだろうけど、あんな場所で出された料理をばくばくと食べれば、あとで何を言われるかわかったものではないわよ」
「そうでしたか、不勉強ですみません。今、お夕飯を温め直して参ります」
 パーティーに参加することがあれば、きっとたくさんの恥をかいてしまうだろう。参加する予定は一向になくても、そんなルールを教えてくれる姉に感謝してシェリルは台所へ向かう。
「ああ、本当にお腹がぺこぺこだわ、早くして頂戴」
 ミレーナは居間のソファーにどすん、と身体を沈めると、ヒールの高い靴を脱ぐ。
「それにしても、今日のパーティーには見る目のない男しかいなくて期待外れだったわ」
 ミレーナがぶつぶつ文句を言っているところをみると、どうやら今回のパーティーでは、素敵な出会いはなかったらしい。
 そんなに無理して出会いを求めなくても、ミレーナにはカシューという優しくて素敵な人がいるのに、と思いながらシェリルはテキパキと慣れた手つきでミレーナの食事を温めた。

「こんにちは、シェリル。ミレーナはいますか?」
「こんにちは、カシュー。部屋にいると思いますので、今、呼んで来ますね。応接間へどうぞ、少しお待ちください」
「はい、わかりました」
 翌日、昼食の後片付けをしている最中にカシューが訪ねて来て、シェリルの胸はときめいた。カシューはミレーナに会いに来たと当然理解しているのだが、普段から優しく接してくれる温厚な彼に、憧れにも似た淡い恋心を抱いていたのだ。

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