異世界の私の命運は、パンツの紐に懸かってる(上)

著者:

表紙:

先行配信日:2025/03/28
配信日:2025/04/11
定価:¥990(税込)
異世界に迷い込んでしまった舞は、偽善の皮を被ったエロ神父から逃げ出して、働き口を求め王都へと流れついた。
けれど、紹介状がなければ雇えないと門前払いされて絶体絶命!
こうなったら物を売って稼ぐしかない。鞄を漁って目に飛び込んできた紐パンツに全てを懸けることにした。
決死の覚悟で売り込みをかけた舞の前に現れたのは、若き野心家の商人のカルレス。紐パンツが彼の目に留まったことで舞の運命が大きく変わっていく。
でも待ってください、売り込んだのは紐パンだけで私は商品に含まれておりません!!

元の世界の知識をフル活用で生き延びていくポジティブな猪突猛進ヒロインと、
持てる全てを使って迫る大人の色気ダダ漏れヒーローのドタバタラブコメディ開幕!

成分表

♡喘ぎ、二穴、NTR、非童貞、などの特定の成分が本文中に含まれているか確認することが出来ます。

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プロローグ



 人間はご飯を食べないと死ぬ。眠れないと弱る。
 これは誰に教えられなくても知っている、人間の生きるための本能だ。
 豊かになりすぎた現代の日本では、お腹が空けば二十四時間いつでも食べ物が買えてしまい、眠たくなれば柔らかく温かい布団で眠ることが出来る。
 それがどれほど幸せで、どんなに幸運だったかを、私は今、空腹と寝不足に苦しみながら噛みしめていた。
「お腹空いたぁ……おにぎり食べたい、中身の我が侭なんて言わない。もう白米と塩だけでいい……」
 想像したらお腹が余計に空いてしまい、深く後悔をしながら汚れた服のまま膝を抱える。それからもう充電がほとんど残っていないスマホの電源を入れ、明るい画面を目に映す。そこには何百枚も撮った日常の写真と、家族や友達とのメッセージが残っていて、寂しさと不安がこみ上げてきた。泣きたくて震える唇を噛みしめる。
 メッセージにはこの前迎えたばかりの誕生日のお祝いが届いていた。「舞、お誕生日おめでとう!」「仕事終わったら飲みに行こうよ! お祝いするよ」「おめでとうございます舞先輩。今度プレゼント持って行きますね」「舞、元気にしてる? たまには実家に戻っておいで。お父さんもお母さんも、いつでも舞の帰りを待ってるよ」。
 噛みしめたはずの唇から嗚咽が漏れる。
「……元気だよ。今、ちょっとだけ大変なことになってるけど……お母さんの作ったご飯が食べたいなぁ……」
 ズッと洟を啜って涙を腕で拭う。気持ちを落ち着かせるように大きく息を吐きながら見上げた空は、見慣れた地球と同じ青色で、少しだけそれが救いに感じる。ただ、それ以外の見覚えのない景色は、知らない場所に迷い込んでいる事実を突きつけているかのようで、あんまり好きになれそうにないと思った。
 ぐーっと鳴るお腹を抱える。私がこんな目にあってしまったのは、二十一歳の誕生日の夜のことだった。一緒にお祝いしようと計画を立ててくれた友達と楽しく飲んだ後、酔いを醒ましたくてフラフラ歩いていたら、いつの間にか知らない場所へと迷い込んでしまっていた。
 その場所が地球ではないと知ったのは、森に魔物が出るという兵士たちの言葉からだ。野生の動物ではなく「魔物」と言った。兵士の見た目から判断して日本ではないことは確実で、言葉が分かることから外国でもないと判断が出来た。
 それから街行く人の奇抜な髪や目の色や、荷車を引く珍妙な動物などから、本来の世界とは異なる世界。つまりは異世界に迷い込んでしまったのだと結論が出たのだった。
 そこからは怒濤の展開だった。アジア人によくある欧米人には童顔に見えるフィルターにより、とりあえず孤児として教会に預けられることになった。年齢の訂正をしてもよかったのだが、何もかもが全く分からない状況の中で情報を手に入れるためには、聖人である教会の関係者に相談したり、話を聞いたり、または孤児とお喋りすれば、色んなことが分かるかと思ったからだ。
 しかしながら、私の考えは甘かった。新しい孤児として私を受け入れてくれた年輩の神父は、子供にしては発育のよく見える私を手込めにしようとしたのだ。数日間親切な振りをして油断を誘い、夜中にこっそりベッドに忍び込んでくるジジイなど、それはもう妖怪と同じ扱いで良いと思う。
 最初からおかしいと思ったんだよね。じーっと見てくるし、妙に馴れ馴れしいし、他の孤児とは明らかに支給された服の質が違うとか、側仕えの仕事を与えられるとか……もう始めから手込めにして囲う気満々じゃないですか。あのエロジジイめ。
 結果的にエロ神父をぶっ飛ばしたせいで教会にはもういられなくなり、夜中のうちに慌てて逃げ出す事態になった。
 慰謝料として今まで支給された服や日用品を拝借して、いくつか売って路銀にした。教会はエロジジイのせいで嫌な場所になったが、数日間に渡り異世界の情報を仕入れることが出来たので、それなりに役には立ってくれた。
 ただ、異世界の生活がこんなに過酷だとは思ってもいなかったんだよね……
 またお腹が鳴った。空腹はとても辛い。教会から持ってきた美味しくないパンはもうすでになく、路銀も残り僅か。今の私に残されているのは、買取が出来ないと言われた服類ばかりだ。どうせなら食べ物をもっと持ってくればよかったと後悔しても遅い。
 あまりに腹が減りすぎて、いっそあの教会に戻ってしまおうかとすら考えてしまう。エロジジイに手込めにされるのは嫌だけど、その状況を受け入れさえすれば、今のようにお腹が空きすぎて苦しくなることもないし、それなりに清潔な屋根の下で眠れるはずだ。
 ……ダメだ。それはやっぱり嫌だ……
 自分に言い聞かせるようにして心の中で繰り返し、名残惜しみながらスマホの電源を落とす。
 もし異世界から戻れないのだとしたら、家族にも友達にも二度と会えないかもしれない。
 寂しくて、辛くて、死にそうだけど、私はそれでも生きたい。……ただ、異世界はそんなに甘くない。仕事を探そうにも商売は同族経営か縁故採用で、身元不明の人間を雇ってくれるような店がない。つまり、お金が稼げないのだ。
 おかしい、こういう場合は親切なご老人とかと出会って、お店を手伝わせてくれるとか、そういう流れになるはずでは……。
 それか「おお、聖女よ! よくぞ我が世界に参った」とかそういうの。何かこの世界で生きるための目標を他人から貰えるのが、最も精神衛生的に楽だったはずだ。
 怖いから魔物とは戦いたくないけど……
 この世界についていくつか分かったことがある。黒髪は珍しいけど存在しないわけじゃない。今は染めている茶色い髪が、将来的に黒に戻っても問題はないだろう。
 文明的には昔のヨーロッパに似ている。石畳の道と、レンガの建物。屋台の食べ物は中々美味しいが、油断をしていると価格をぼられる。
 主食はパン。それと王政。この街の隣にある王都にはお城があり、多分ノイシュバンシュタイン城みたいな感じの所に王様が暮らしていて、貴族もいる。ファンタジー系のエルフやドワーフなどの人種はいなくて、残念ながら魔法もない。
 屋台でパニーニみたいなサンドイッチを買ったときに店主に「どこか雇って貰えそうな場所はないですか?」と聞いたら、王都ならあるんじゃないかと言われた時は、遠くへ行くのは野盗が怖いと思ったが、もうそんな我が侭を言える経済状況ではなかった。
 とりあえず仕事をしてお金を稼がないと、本当にのたれ死ぬ……
 空腹に耐えながら乗合馬車の停留所へと向かう。木板に書かれた文字は読むことが出来て、それぞれの馬車が向かう先と料金が書かれている。
 王都までは近いため、それほど高い料金ではないが、払ってしまうと手持ちのお金が鉄貨三枚になってしまう。もうパニーニもどきすら買えない残金だ。
 だが、旅慣れしていない女一人での移動の危険性を考えると、払う価値はあるだろう。
 ええい、持ってけ! 私の銅貨五枚!
 王都への乗合馬車は本数が多いのか、然程混んではいなかった。ただ、想像以上に乗り心地が悪い。出発してまだ数分しか経っていないのに、お尻がすでに痛い。もう早くも降りたい気分になったが、それでも歩くよりは早くて安全なため、気合いを入れて我慢をすることにした。
 馬車はどんどんと街から離れ、遠くに見えていた森へと入っていく。外から見るよりも深い森は、魔獣や物盗りが潜んでいてもおかしくはないだろう。乗合馬車は護衛が付いているため、その点は安全安心だ。銅貨五枚の価値はある。
 ゴロゴロというよりも、ガッタンゴットンと馬車で進んでいると、どこからか転がってきたボタンが足に当たって止まった。拾い上げると、隣に座っていたご年輩のご婦人に「あら、ごめんなさいね」と声をかけられる。
「袖のボタンが取れちゃったみたい」
「かわいいボタンですね」
「ありがとう。とってもお気に入りなの」
 ご婦人は嬉しそうに微笑みながらボタンを受け取ると、鞄から小さなポーチを取り出した。中身はソーイングセットのようだ。
 ご婦人は頑張ってボタンを付けようとするが、揺れのせいか、お年のせいか、針に糸が通らないようだ。
「よかったら付けましょうか?」
「あら。……お願いしても良いかしら?」
「もちろんです」
 針と糸を受け取って穴に通す。揺れは厄介だが、何度か挑戦するとスルリと針穴に糸が通り、差し出されたご婦人のシャツの袖にボタンを付ける。学校で習った通りにクルクルと巻き付けながら、最後は糸玉が見えないように裏地の中に引っ張り込む。
「手際がいいのね」
「練習しましたから」
 褒められたことが嬉しくて微笑むと、ご婦人も私に対して好意的な印象を持って下さったようだ。王都へは何をしに行くの? と訊ねられ、素直に職探しにと答える。ご婦人は袖のボタンがしっかりと縫い付けられているのを確認すると、嬉しそうに笑った。
「これだけ手際が良いのなら、お針子を目指すのはどうかしら?」
「お針子ですか?」
「ええ。王都は服屋さんも多いから、人手が沢山いるのよ」
「本当ですか! それなら王都に着いたら服屋さんを回ってみます」
「貴方の活躍を祈っているわ」
 ご婦人から貴重な情報を手に入れた。頭の中でテッテレーと効果音を奏でながらグッと拳を握ると、ご婦人が良いことを思いついたといそいそと鞄を探り、小ぶりのハサミといくつかの糸束を、先ほどのソーイングセットが入っていたポーチに入れて差し出した。
「良かったらどうぞ」
「え、でも……」
「わたくしが持っていても使えないって分かったから、貴方が持っていて。ボタンのお礼よ。ありがとう」
「こ、こちらこそ、ありがとうございます」
 久々の人の優しさに涙がジーンと滲む。ようやく辿り着いた王都で、ご婦人の姿が見えなくなるまで手を振った。そして、噛みしめながら呟く。
「舞はソーイングセットを手に入れた。なんてね」
 少しでも楽しい気分の振りをしなければやっていられない。
 軽いノリを心掛けて、よし! と気分を盛り上げたところで、王都への立入は身分証か入場料が必要だと知り、膝から崩れ落ちたのだった。

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