貧乏男爵令嬢は前世持ち

著者:

カバーイラスト:

先行配信日:2022/09/16
配信日:2022/09/30
定価:¥770(税込)
男爵令嬢エルリーナです。ちょっと貧乏な田舎暮らしの普通の令嬢です。
前世をちょっぴり憶えていますが、役に立ったことは一切ありません。
デビュタントのため、王都の舞踏会で一曲踊ることになったのですが……
なぜか! 執着王太子様に迫られてます! 結婚しようと言われてます!
絶対逃げきってみせますとも!――回避不可能、愛されハッピーエンド!
話題の人気WEB作品、e-ノワール創刊記念書き下ろし大増量です!

成分表

♡喘ぎ、二穴、NTR、非童貞、などの特定の成分が本文中に含まれているか確認することが出来ます。

立ち読み
see more

1 王都へ行きます



 私の名前はエルリーナ=コルストル。コルストル男爵家の長女です。
 濃い茶色の髪に赤茶色の瞳。中肉中背だけど、お胸は悔しいことに奥ゆかしいです。顔はあっさりとした平凡顔で、よい方に見積もっても十人中五、六番目くらいの立ち位置だと思われます。
 ハッキリ言えば、存在感の薄い、平凡を絵に描いたような娘なのです。
 私の生まれ育ったコルストル男爵領は、領地としては、そこそこの広さを持ってはいますが、いかんせん田舎。ド田舎です。
 その上、我が家は貧乏。まあ、辺境のしがない下級貴族なんて、そんなものなのかもしれません。
 食うに困るほどではないので、けっこうお気楽に暮らしていたのですが……。
 ここに来て、最大の問題が発生したのです。
 我が国、シエルシャ国には、けっこう多くの決まりごとがあります。その中の一つに貴族の娘が成人を迎える時には、王宮主宰の舞踏会に参加し、国王様もしくは王太子様から一曲ダンスを踊っていただき、ダンスの後に国王様自らの手により“成人の認定証”を受け取るというのがあります。
 いわゆるデビュタントというやつです。
 この“成人の認定証”というのがけっこう大事なもので、認定証を受け取っていないと、未成年のままだとみなされて、結婚したり、職に就いたりができないのです。特に貴族の結婚は国王様の許可が必要なので、認定証は必ずいただいておかなければならないものです。
 そのため、年に一回催される新成人のための舞踏会には、成人を迎えた貴族の娘は、何を置いても必ず王宮に赴かなければなりません。
 そう、どんな下級貴族の娘でもです。
 どんなに僻地に住んでいようとも、どんなに貧乏で王都に行くだけのお金を工面するのがとっっっても大変だとしても。
 シエルシャ国に住む貴族ならば、守らなければならない決まりごとなのです。
 ちなみに庶民の皆さんは、ご近所の教会に行って、神父様から認定証を受け取るだけのお手軽仕様らしいです。なんて羨ましい。
 ということで、私は今、馬車の中なのです。昨日も馬車の中でした。一昨日も、そのまた前の日も、そしてそして、その前の前の日も。
 もう、ずーっとずーっとずーっと、馬車の中なのです。
 私も先々月一五歳になり、成人を迎えました。よって、今年度の新成人の舞踏会へと参加して、認定証をいただくために、現在王都へと向かっているのです。
 馬車の中を揺られ揺られて、もうすぐ一カ月です。
 わがコルストル男爵領から王都まで、馬車で一カ月以上かかります。そう、我が家は超絶田舎にあるのです。
 来る日も来る日も馬車の中です。お尻が痛かろうが、馬車酔いしようが、そんな些末なことなど気にすることはできません。延々と馬車の中です。
 王都への行程で、上手く村や街を通るとは限らないので、宿屋に泊まるなどという甘っちょろい考えは捨てないといけません。
 宿屋に泊まろうなどとしていたら、最短コースの道を外れるため、日程が延びることになってしまうのです。雇っている御者や護衛の人たちの人件費が大幅に増えてしまうのです。もちろん宿屋代もかかります。
 古い馬車を、護衛とは名ばかりの村人感丸出しの人たちが護っているのです。盗賊が狙うとは思えませんが、一応はうら若き貴族令嬢in馬車です。トイレ休憩以外は馬車の中で寝て起きて、食事もしています。
 文句など、経費を計算して貧血を起こしたお父様相手に言えるわけがありません。
 たった一人連れてきた侍女のララと二人、狭い馬車の中、お互い死んだような目になりながら王都を目指しているのです。
 一刻も早く王都へと着きたいと、ただそれだけを願っているエルリーナなのでした。



2 王都へ着きます



 やっと王都へと到着することができた、エルリーナです。
 お尻が真っ平になるかと心配しておりましたが、面の皮と一緒で、お尻も強かだったようで、無事でした。
 王都では、お父様が学生時代に、ご学友だったという、エルシュワ子爵様のお屋敷に滞在させていただけることになっております。
 お父様が、厚かましさと同じぐらい分厚いお願いのお手紙を、エルシュワ子爵様へ出してくださいました。
 王都の宿屋のことは、ホテルというらしく、田舎のこちらでは考えられないほどの高額な料金を取られるそうなのです。交通費にほとんどの予算を使ってしまうコルストル男爵家の私が、ホテルに泊まれるはずもなく、心の広いエルシュワ子爵様のおかげで、強制馬車泊を免れることができました。感謝の気持ちがぬぐえません。
 その上、舞踏会でエスコートのない私のために、エルシュワ子爵様自らがエスコートしていただけるそうなのです。
 ありがたすぎて、エルシュワ子爵様にお会いしたら、両親に持たされた手土産を渡すよりも先に、五体投地させていただこうと思っています。
 舞踏会の開催される前日に、エルシュワ子爵様のお屋敷に到着する予定です。
 本当は二日前には王都に着いてはおりましたが、馬車待機です。せっかく王都に着いたというのに、結局馬車泊しております。
 いくらエルシュワ子爵様が快く滞在を許してくださったとはいえ、そんなに長々とお屋敷に居座るわけにはいかないのです。
 エルシュワ子爵様のお屋敷にお邪魔するのは、舞踏会の前日から翌々日までの三泊四日です。お父様から念押しされております。
 本当は舞踏会翌日には帰宅のためにエルシュワ子爵様のお宅からお暇する、二泊三日の予定だったのですが、せっかくだから舞踏会の次の日に、王都観光をしたらどうかと、エルシュワ子爵様の方から仰ってくださったのです。一泊延長させていただけることになったのです。
 どこまでも心の広いエルシュワ子爵様なのです。
 ですから今は馬車の中で待機です。暇を持て余しておりますが、最終日の王都観光を楽しみに、大人しくしております。
 それに、馬車から降りれば、護衛の方の手を煩わせることになってしまい、別途料金が発生してしまうのです。
 お父様のことを思えば、うかつなことはできません。

「お嬢様、トイレに行きたいです」
 向かいの席で、せっせと刺繍をしていた侍女のララが私に告げます。
 わざわざ報告せずに、トイレぐらい一人で行けよ。と、思われるかもしれませんが、ララがトイレに行きたいなら、私も行かなければならないのです。
 今、馬車を止めている場所は、王都に着いたとはいえ、王都に入る一歩手前。関所近くにある、馬車待機場なのです。
 関所の順番待ちや王都の中で宿泊することのできない、馬車泊の人たちが使う公共の場です。
 公衆トイレは完備されているのですが、馬車待機場というだけあって広く、トイレまでが遠いのです。
 関所のすぐ近くとはいえ、王都の外は治安がいいとは言えません。
 何台も停まっている馬車が邪魔をして、見通しもよくはありませんし、かどわかされそうになって、声を上げても、関所の門番さんまで声が届くはずもありません。
 周りの人たちも、せっかく王都に着いたのに、面倒ごとに巻き込まれたくなどないでしょう。
 ということで、馬車を降り、トイレに行くためには、護衛の方に嫌ですけどついてきてもらわなければならないのです。
 私とララが別々にトイレに行ったなら、護衛の方の手間が二倍になってしまいます。
 どちらかがトイレに行きたくなったら、一緒に行って、用を足さなければならないというわけです。
 せっかく馬車を降りるのですから、ここぞとばかりにストレッチをしながらトイレに向かいます。
 一応貴族の令嬢ですが、エコノミー症候群は怖いのです。
 早く王都の中へと入りたい、エルリーナなのでした。

see more
先行配信先 (2022/09/16〜)
配信先 (2022/09/30〜)