お一人様で生きていきたいのに、前世の旦那様にロックオンされていて困ります6

著者:

表紙:

先行配信日:2026/10/23
配信日:2026/11/06
定価:¥880(税込)
「お一人様で生きていく!」と誓っていたはずが、前世の旦那様であるダニエルの激甘な愛情に絆され、交際を続けているルビエラ。
そんなある日、自分がルビエラの父親だと名乗る男が現れ、ルビエラを無理やり婚約させようとしてきて!?

自称・父親の登場に戸惑うも、その背後にはダニエルが追っている事件が絡んでいた。
真相を探るためあえて偽の婚約話に乗ろうとするルビエラに対し、彼女を溺愛するダニエルが黙っているはずもなく……

恋人の危機に、ダニエルの独占欲と過保護が爆発!
大人気、前世の縁から始まる溺愛ファンタジー第6巻!

成分表

♡喘ぎ、二穴、NTR、非童貞、などの特定の成分が本文中に含まれているか確認することが出来ます。

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第1話 夢



「あんたの父親はね、あんたと同じ情熱的な赤い髪をして、青空みたいに明るい青い瞳をした逞しい男だったんだよ。色んな男がいたけど、あれだけいい身体をした男は今までお目にかかってないね」
 ルビエラの髪の毛を一束手に取りながら、何かを思い出すようにうっとりと空中を見つめる女は、胸元が大きく開いたワンピースをさらに着崩し、昼からなんだか酒臭かった。
「おまえは久しぶりに帰ってきたかと思えば、くだらないことをルビエラの耳に入れるんじゃない!」
「くだらないって何さ! この子だって、自分の父親のことくらい知りたいだろう」
「ハッ! 本当にそいつが父親ならな。おまえ、誰の子かわからないって言ってたじゃないか」
(ああ、おじいちゃんがまだ若いな。じゃあ、私の髪の毛を引っ張っているこの女の人は母さんか。ほとんど記憶になかったけど、こんな……だらしない感じだったのね)
 ルビエラの身体は子供だったが、冷静に周りを見るシビアな視線は大人の物だった。死んだ筈の祖父が元気に動いているのだから、これはルビエラの見ている夢に違いないと判断する。母親に文句を言う祖父を見ながら、ルビエラは起きたくないなと思い、ジッとしていることにした。
「そりゃ、お腹の中にいた時は確かに誰の子かわからなかったよ。でもほら、この髪! あの男にそっくりだもん」
「赤毛など珍しくない」
「でも、こんなダークレッドの赤毛はエリオスしかいなかったもん」
(エリオス……、父親の名前はエリオスって言うんだ。初めて知ったわ)
 祖父は「フンッ」と鼻を鳴らした。母親はさらにルビエラの髪の毛を引っ張る。
「第一、その男、砦に短期間の契約で雇われた傭兵で、どこの誰かもわかんねぇだろが」
「……聞いてないけど。絶対にあの人の娘だって。それに、どこの誰だかわからなくないよ。さ……北の……そう! ハジャパトラ国の出身だって言ってた」
 ルビエラは髪を強く引っ張られ、起きちゃうからやめてよ! と思いながら、母親の手から髪の毛を引っ張り抜いた。椅子から飛び降りて、祖父の下に走って行きその腰に抱きつく。その煙草臭い匂いに、懐かしさで涙が出そうになる。
「ほんと、なつかない嫌な子」
「母親らしいこともしないくせに、慕われると思うな!」
「ふん! 別に、欲しくてできたわけじゃないもの。母親になんかなりたくもなかったし」
「ミーシャ!!」
 祖父が持っていた布巾を母親に投げつけ、肩に当たって落ちたその布巾を、母親は拾って祖父に投げ返した。
「汚いな! もう、こんな家出て行くからいい!」
「二度と戻って来るな!」
 母親は机を蹴って祖父を睨みつけると、ルビエラには目を向けることなく家を出て行った。
(そう言えば、これが母さんを見た最後だったかもしれない。おじいちゃんに、この後母親は病気になって死んだって聞いたし、葬式もした気がする。病死するようには見えなかったけれど、この時にすでにどこか悪かったんだろうか?)
「ルビエラ、あいつの言う事は気にするな。ルビエラにはじいちゃんがいる。おまえはじいちゃんの自慢の孫だ」
 ルビエラが祖父にしがみついてその固い腰に顔を押しつけると、祖父は優しく頭を撫でてくれた。

 ★★★

 優しく髪を梳かれる感触に、ルビエラはその手にすり寄った。ゴツゴツと節くれだってヒビ割れていた祖父の手とは違うが、大きくて温かいその手は、ルビエラに安心感を与えてくれた。
「はぁ……。ルー、可愛過ぎるんだけど」
「……ぅん」
「ルー、好きだよ」
 頬にキスをし、鼻にキスをし、それでも起きないルビエラに焦れたダニエルは、眠ったルビエラに悪戯をする。昨晩つけたキスマークを辿るようにキスをする。キスマークを舐めて吸い上げ、さらに濃くなった痕に気を良くしたダニエルは、眠るルビエラを見上げながらその胸の先端を口にふくむ。唇と歯で挟むようにし、ゆっくりと舌で舐る。
「ふ……あ……」
 ルビエラが起きないギリギリを攻めるが、それでもすぐにプックリと固くなる乳首に、ダニエルはニヤリと笑った。可愛くて、愛しくて、いつまでも可愛がっていたい。ルビエラの大きな胸にダニエルの高い鼻が埋まるくらい尖った先端を深く咥えると、ジュルジュルと吸い上げた。
「……ん……ん……あん」
 チュポンッと口を離すと、赤く尖ったそれを一舐めし、またキスマークを辿って下へ下がる。可愛らしい臍にもキスをする。さらに下へ行くと、足と足の間に身体を入れて、そこをじっくり観察する。トロリと流れ落ちたのは、ルビエラの愛液か……昨日たっぷり注いだダニエルの精か。
 秘裂を広げると、すでに中は柔らかく、ダニエルの指をすんなり受け入れてくれた。ゆっくりと指を出し入れすると、ルビエラは眠ったまま腰を揺らした。指を二本に増やすと、ルビエラは眉を寄せて艶めかしい表情になる。それでも起きないのは、よほど疲れているのか?
 昨日、攻めた自覚のあるダニエルは、ルビエラを労るように腰を撫でるが、寝ているルビエラに悪戯する手は止まらない。
「ルー、起きないと挿れちゃうよ」
 指を少し曲げ、よく知るルビエラのイイ場所を押してやると、ルビエラの中はキューッとダニエルの指を締め付けてきた。微イキしたようだが、まだまだ起きる気配はない。
「はぁ……、気持ち良さそう。これは挿れないって選択肢はないよな」
 ダニエルは、すでにやる気に溢れている自分の股間に話しかけるように言うと、ルビエラの秘裂に亀頭を何度も擦り付けた。吸い付くようなその感触に、ダニエルがほんの少し腰を前に突き出しただけで、ルビエラのそこはダニエルをすんなりと迎え入れていく。
「……やばい……な」

 ★★★

 さっきまで目の前には祖父がいて、小さな自分がいたはずなのに、目の前が暗くなって身体がフワフワと浮いたようになった。
(あ……、んん? ……はあっ)
 いきなり感じた快感に、ルビエラは視線を下に向けた。そこには黒髪の男がいて、いつも以上に真面目な表情で不器用そうにルビエラの胸を舐めていた。しかし、その胸は自分の物と思えないくらい小さい。
「旦那様……」
 いつの間にか、自分は子供ではなく前世の茜の姿になっており、前世の夫である大悟と夜の営みの真っ最中だった。茜(ルビエラ)は、「ああ、これはやっぱり夢なんだ」と理解する。
「……可愛い」
 茜(ルビエラ)の胸を舐めていた大悟は、絶対に前世で言わなかったような言葉を発し、さらには小さな胸を啄みながら愛情に溢れた視線を向けてきた。感情を態度にも言葉にも出すことのなかったあの旦那様が、まさかこんな表情でしかも「可愛い」とか言っちゃえるなんて! と、茜(ルビエラ)は驚愕で固まってしまう。
 ルビエラには、人の前世の一場面が見えてしまう能力があり、自分の前世も嫌というほど見てきた。結婚前も結婚後も、家族に尽くして尽くしまくって、顧みられることなく年老いて死んだ。そんな人生を見てきたからか、ルビエラは物心ついた時からすでに、結婚に夢も希望も持っておらず、自分の力で「お一人様」で生きていこうと、恋愛を全拒否した大人になってしまった。
 そんなルビエラの意識が変わったのは、大悟を前世に持つダニエル・オースティンと出会い、大悟目線の前世では茜はちゃんと愛されていたことを知ったからだった。今では、ダニエル限定ではあるが、恋愛も結婚も否定しようとは思っていない。
「茜……好きだ」
 そう言いながら、茜(ルビエラ)の胸の先端を咥え、ゆっくりと舌で嬲る大悟は、まるでダニエルがいつもするようにジュルジュル音を立てながら吸い出した。
「……ん……ん……あん」
 茜(ルビエラ)の様子をうかがいながら、熱のこもった視線を向けてくる大悟に、子宮がキュンとしてしまう。ダニエルには言えないが、誰が見ても男の色気漂う甘く整った顔立ちのダニエルよりも、淡白な顔立ちで常に厳しい表情をした大悟の方がルビエラのタイプだったりした。ダニエルから愛を囁かれても、あまりに日常過ぎて、「はいはい」と受け流し気味だが、大悟の「好きだ」は、特別感があり過ぎて、それだけで気持ち良さも倍増だ。本物の大悟にそんなことを言われたことはないから、明らかに夢だってわかるけれど、あまりに気持ち良すぎる。
「もっと……触れて」
 茜(ルビエラ)の口からも、前世の茜だったら絶対に言わないだろう一言が出る。
 待ちわびた大悟の指が、茜の秘裂を押し開いて入ってきた。ゆっくりとした動きがもどかしく、「もっと」と腰が自然と動いた。すぐに指は二本に増やされ、その長い指は良い場所を刺激してくれる。
 ルビエラの能力は、前世の一場面を見る能力だ。それはあくまでも見るだけで、自分のこととして感じる能力ではない。また、前世の記憶があるわけでもない。だから、大悟と茜の夫婦の営みは見たことはあったが、大悟自身を感じたことはなかった。現実のルビエラは、男性と付き合ったのはダニエルが初めてだし、男性経験もダニエル一人だ。ダニエル以外の男とセックスをしたいとも思わない。
(でも、今、どうしようもなく大悟が欲しい。どうせ夢だし、何よりも大悟はダニエルの前世だもの。性格は真逆かもしれないが、同一人物と言ってもいい……よね?)
 夢の中とは言え、ルビエラが大悟を欲しがったと知れば、ダニエルは酷くやきもちを焼くに違いない。ダニエルには、前世が見えることも伝えてあるし、前世が見えることで知った、この世界がとあるゲーム(茜の死後に流行ったゲームらしいけれど)と近似した世界であることも伝えてある。
 大悟に翻弄され、夢の中なのに軽くイッてしまったルビエラは、自分を見下ろしながら眉根を寄せる大悟に、とうとう懇願してしまった。
「旦那様ぁ……お願い、挿れてください」
 大悟は小さく「……ん」と頷くと、茜(ルビエラ)の腰をつかんで男根の先をルビエラの中に押し込んだ。

 ★★★

「あぁ……」
 いきなり襲ってきた快楽に、ルビエラは口をハクハクとさせて目を見開いた。暗い部屋の中で、自分に覆いかぶさる男の影に恐怖を感じる。
「ルー、やっと起きた」
 聞き覚えのある声に、緊張で固まった身体の力が抜けた。それと同時に怒りがわいてくる。いきなり(下準備はじっくりされていたみたいだけど)突っ込まれて目が覚めるとか、いくら恋人でも駄目だろう。
「……ダン」
「おはよう」
「おはようって時間じゃないですよね」
 カーテンは閉めてあるが、遮光ではないから外が明るくなれば部屋の中も明るくなる。真っ暗な今は、真夜中を過ぎたところだろうか。
「じゃあ、ただいま」
「ここは、騎士団寮の私の部屋ですけど。しかも女子寮の!」
「疲れて帰ったら、可愛い彼女にお帰りって言って欲しいじゃん」
「って言って、連日泊まりに来てますよね。仕事中だってほぼ一緒じゃないですか」
「仕事中はツンなルーじゃん。デレなルーも見たいんだよ」
 ダニエルは、グイッとルビエラを突き上げた。
「んあっ! ……」
 普通に会話をしていたが、ダニエルのモノはルビエラの中に入ったままその硬度を衰えさせずにいる。ルビエラの奥を細かく突くように腰を動かし、強制的にルビエラの快感を引き出して、起きたらセックスしていた状況というのをなあなあにしようとしているようだ。
「ちょ……待っ……ああん」
「ルーが(寝ぼけてだけど)挿れてって言ったんだよ。ほら、中が柔らかくなってるから痛くないだろ。俺のをしっかり咥え込んで、離したくないって締め付けてきた」
「あっ……あっ……はぁあ……」
 突かれる度に甘イキしてしまい、待ってと言いながらも、さらに深く繋がろうと、ルビエラはダニエルの腰に足をからめて引き寄せる。寝ている間にすでに快感に身体を開かれているルビエラは、頭ではダニエルに文句の一つでも言わなければと思っていても、身体は貪欲に快楽を求めてしまう。前世が見えるという能力のせいで知った、この世界がエロゲーと呼ばれるゲームのせいか、自分の身体が酷く快楽に弱い気がした。ただ単に、ダニエルが女性経験が豊富(ルビエラと知り合う前の話ではある)だからなのかもしれないが……。



第2話 父親



 ルビエラの朝は早い。寮の部屋を簡単に掃除してから街の朝市へ行き、屋台で買った朝食を持って騎士団詰め所へ逆戻りする。詰め所には食堂もあるのだが、……とある理由であまり使用したくない。というか、辺境騎士団から第三騎士団へ転属となってから一度も使用したことはなかった。転属初日に団長執務室に挨拶に行ったルビエラは、執務机の上でからむダニエルと食堂勤務のマイラー・ホークの熱烈なキスシーンを見てしまったからだ。最初はなんとなく気まずくて食堂から足が遠のき、ダニエルと付き合うようになってからは、極力ダニエルの過去の女性達には関わらないようにしていた為に食堂を避けていた。
 ルビエラと付き合う前のダニエルは、来る者は拒まず去る者は追わず、常に入れ食い状態の女ったらしであった。彼女がいる時は浮気(どこまでを浮気ととらえるかは人それぞれであるものとして)はしなかったものの、女性全般に優しく、女性からの過度なスキンシップも拒否していなかったせいか、ヤキモチを焼いた彼女が耐えきれなくなって別れるということを繰り返していた。そのうち、割り切った(ふりをした)女性がダニエルの周りに集まるようになり、食堂のお姉さんであるマイラーや花売りのスザンナ、娼婦のナターシャなど、その他美人でグラマラスな女性達がダニエルと関係を持っていたようだ。
 ダニエルはルビエラと付き合ってからは、関係のあった女性には今後遊びでセックスするつもりがないことを宣言し、寄って来る女性とは距離をとって接するようになった。別人か!? というくらいルビエラを溺愛するようになったが、今までのダニエルを知っている女性達は、すぐに昔のダニエルに戻るに決まっているとばかりに、ダニエルにアプローチする女性は多かった。
「あら~、団長付き事務官ちゃんじゃな~い」
 朝食の入った紙袋を片手に騎士団詰め所に入ろうとしたところ、朝から鼻にかかった色気のある声に呼び止められた。振り向くと、胸元がギリギリまで開いた前ボタンのワンピースを着たマイラーが立っていた。実は彼女、この世界の大元となっている「キャンベル王国シリーズ」というエロゲーの第一シーズン、「キャンベル王国学園、全女子生徒を攻略せよ! ~ジルベルトの乱れた放課後~」の攻略対象なんだそうだ。そのことは、前世の記憶を持つ第三王子妃エリザベスや王太子の第一王女アンネローゼから聞いて知った。それを聞いた時、ダニエルがエロゲーとやらの攻略対象を攻略していたことに驚いたが、ダニエルが関係してくるのは、いわゆる特別版……男同士の十八禁物の方らしいので、今のところダニエルはゲームとは無関係のモブ扱いで良さそうだった。ちなみに、ダニエルには男性を愛する嗜好はない。
「おはようございます」
 同じ騎士団勤務ということで、会釈して通り過ぎようとする。
「それ朝食? そう言えば最近、ダニーが食堂に来ないのよね~」
「夜食などは利用しているようですが」
 話しかけられてしまったから、しょうがなく立ち止まる。立ち話をする仲でもない……と言うか、顔を合わせたのは第三騎士団に転属になった初日だけだから、ほぼ初対面と言って良いだろう。
「私の勤務時間外じゃない。あなたからも、食堂に来るように声をかけてよ。私は朝から夕方までいるんだからさぁ」
 頬を膨らませて可愛い子ぶる姿は、いわゆるギャップ狙いなんだろう。妖艶な美女のあどけない素顔的な。体力が余った騎士達の下半身には、ダイレクトに訴えかけられるのかもしれないが、ルビエラにはそのギャップは通用しない。
「そのように伝えておきます」
「ちょっとぉ、そう言いながら、あんたがダニーに食堂を利用しないように言ってるんじゃないの? それだって、一人で食べる量じゃないよね? ダニーの朝食も買って来てるんでしょ」
 確かに、自分の朝食と一緒に、ダニエルが仕事していてもつまめるような手で食べられる物も買って来ている。でもそれは仕事の効率を考えているからで、ダニエルを食堂へ行かせないようにしているわけではない……筈だ。無意識にダニエルの昔の女にヤキモチを焼いている?
(いや、ないない)
 ルビエラは苦笑気味に自分の考えを否定する。第一に、知り合う前のことをあーだこーだ言っても無意味だし、ヤキモチを焼くには対象が多過ぎる。実際にダニエルが女性とからんでいるところを見たのはマイラーとだけだが、あの時は何よりもダニエルの前世が見えてしまったことの衝撃の方が強かった。一番近寄りたくなかった旦那様を前世に持つダニエルと、まさかお付き合いすることになるなんて、あの時はこれっぽっちも思ってもみなかった。
「団長の分もあることは否定しませんけど、団長に食堂を利用しないようになんて言ったことはないですよ」
「ふーん、まぁいいわ。あんたのことなんか、すぐに飽きるでしょうし」
 マイラーは上から下までルビエラの全身を往復するように見ると、お尻を振りながら騎士団詰め所へ入って行ってしまった。
(なんか、不必要にからまれただけな気がする)
 朝から不愉快な思いをしたルビエラは、マイラーの後ろ姿を見送りながら、なんだかむしゃくしゃとした気分になる。それでなくても、ダニエルのせいで睡眠不足になって頭が重いのに、マイラーのせいで晴天まで鬱陶しく感じてしまう。
「……あっつ」
 ルビエラは、重苦しい前髪を息を吹き上げてわずかに揺らすと、ため息をついて騎士団詰め所に入って行った。
 その日の午後、ルビエラは備品の買い出しに出かけた。王都に来た当初、ここでダニエル親衛隊の三人娘にからまれたなと、懐かしく思い出す。彼女らをたまに街で見かけることもあったが、恋人か婚約者か知らないが彼女らにもお相手ができたようで、そこまでからまれることはなくなった。
 ハロルドいわく、「ルビエラが眼鏡を外して前髪を整えて顔面をさらせば、大抵の女子はからんでこなくなるよ。自分より綺麗な子に、ブスとかダニエルに釣り合わないとか言えないじゃん」とのことだけれど、変に男性につけ狙われるよりは女性にからまれた方がマシだから、その案は却下している。
「ルビエラさん」
 少しハスキーな声に呼び止められて振り向くと、そこには長身美人が立っていた。ルビエラと似たような赤毛で、化粧をしたルビエラに似ているような気がするのは、多分気のせいではないだろう。しかし、これだけ似ていても、ルビエラの血縁者というわけではない。父親関係ではどうかは知らないが、ルビエラには姉妹も従姉妹もおらず、祖父が亡くなってからは天涯孤独の身の上だ。
 ルビエラは、自分にそっくりな女性の頭上をチラリと見る。そこに浮かぶ前世の映像を見れば、彼女……いや彼が誰であるかはルビエラにはお見通しであった。
「あんたね、その変装はどうかと思うわよ」
「なんだ、面白くない。生き別れの姉のふりでもしようと思ったのに。なんでバレたのさ」
 見た目は完璧な女性、しかしちょっと表情や喋り方を崩しただけで、ルビエラも見知った人物に見えてくるから不思議だ。そうじゃなくても、怪盗ロビンソンを前世に持つ人間は元怪盗ロビンソンJr.……今はロイドと改名したこの少年しかいない。
「私にはわかるのよ」
「それは愛だね」
「そんなわけないでしょう。あなた、こんなとこにいてもいいの? アンネ様に仕えたんでしょう?」
「これ、ルビーに招待状。アンネローゼ様から。これを届けに来たんだよ」
 ロイドが懐から取り出したのは、アンネローゼの印が捺してある煌びやかな封筒だった。それを手に取ったルビエラは、空にかざして中身を透かして見ようとする。もちろん、そんな簡単に見える作りはしていないが。
「なんか、ずいぶんと本格的な招待状じゃない?」
 今までも、身内だけ(と言っても、身内が全員王族なんだけど)のお茶会に呼ばれたことはあっても、こんな立派な招待状を貰ったことはなかった。
「そりゃそうだろ。アンネローゼ様の九歳の誕生日パーティーの招待状だからな」
(それって、貴族が招待されるやつじゃないの?)
 仕事でダニエルのパートナーとして貴族主催のパーティーに参加したことはあるが、ルビエラ本人が招待されたことはなかったし、何よりもこれは王族主催の国をあげてのパーティーだ。貴族の中でも、厳選された人間のみに招待状が配られる。たまに一般市民も招待されることはあるらしいが、国の発展に貢献した学者や功績をあげた騎士などが主で、たかだか騎士団の事務官が貰って良い物ではない。
「これって辞退は……」
「これ、アンネローゼ様からの手紙と、エリザベス第三王子妃殿下からの手紙な」
(招待状だけではなく、王族お二方からの手紙付きとか、絶対に断れないやつだ、これ)
 ルビエラは深いため息をつくと、三通の手紙を鞄にしまった。
「ほら、受け取ったからさっさと帰りなさいよ。私は買い物して騎士団に戻らないとなんだから」
「なら、ダニエル団長への招待状もあるから、俺も買い物に付き合うぜ」
 ルビエラは嫌そうな表情を隠そうともせず、けっこうですと手を横に振る。今のルビエラは事務官仕様だから、もっさい髪型に大きめな眼鏡をかけて、誰にも注目されないように擬態していた。ロイドみたいな美女(素顔のルビエラに寄せた変装ではあるが)を連れて歩いたら、あっちこっちから声をかけられて、とてもじゃないけれど買い物なんかできたものではない。この世界の男も女も恋愛にはアグレッシブで、見目が良くスタイル抜群ならば、ナンパするのが礼儀くらいに思っているのだから。
「なら、団長への招待状は私が預かるわよ」
「駄目に決まってるじゃん。本人への手渡しが基本っしょ」
「はぁ……、じゃあ勝手にして。私はあなたを待ったりしないからね」
 ルビエラは道を遮られることなく着々と買い物を済ませていき、ロイドはナンパな男達にしつこく声をかけられながらも、適当にあしらいつつルビエラについて回った。最後の店から出て、後は騎士団詰め所に戻るだけとなった時、ロイドと並んで歩いていたルビエラは後ろから名前を呼ばれた。
「ルビエラ! ルビエラ・オルコットだな」
 野太くハスキーな声に驚き、ルビエラはビクッと肩を震わせた。恐る恐る振り返ると、そこにはがっしりした厳つい体格の中年男が立っていた。ボリュームのある赤い髪はややおさまりが悪いものの白髪もなく、薄くもなってもおらず、日焼けした顔は年を重ねた男の色気が漂っている。
「あんた誰?」
 ロイドがルビエラと男の間に入って、胡散臭そうに男を見上げる。背の小さなルビエラは、ロイドの背中に隠され、男の視線から遮られた。
「俺はエリオス・サルーン」
(エリオス・サルーン? 誰、それ)
「ルビエラ! お父ちゃんだよ!」
 お父ちゃんだよと叫んだ男……エリオスは、筋肉隆々な太い腕を広げ、その厚い胸板にロイドの顔を押し当てるようにギューギューに抱きしめた。
「ぐえっ……」
 熱い抱擁というより、技をかけて絞め落とそうとしてるんじゃないだろうか? ロイドが一瞬白目をむいたような気がして、さすがにそれは人違いだと言おうとしたルビエラだったが、あの抱擁を自分にされても困ると、つい保身に走って口を噤む。しかし、そこそこ修羅場を潜り抜けてきたロイドは、エリオスの脛を蹴り上げて自力で脱出することに成功した。
「何がお父ちゃんだよ……だ! 殺す気か!」
「さすが俺の娘。いい身のこなしをしている。ルビエラ、よく顔を見せてくれ。話に聞いたように俺に似た赤い髪だな。瞳の色は……俺か? ミーシャと同じ琥珀色と聞いた気がしたが、間違いだったんだな。顔は断然ミーシャだ。いや、唇の形は俺のオフクロ似か?」
 ロイドの顔を両手で挟み、至近距離で覗き込みながら言っているが、ロイドの赤い髪は鬘だし、顔の造りはほとんど化粧(特殊メイク)の賜物だ。目の色は確かに二人は似ているかもしれないけれど、残念ながらエリオスとロイドは赤の他人である。
 この男が髪の色でルビエラを認識しているのならと、ルビエラはさりげなく露店で売っていた帽子をかぶり、髪の毛を帽子の中に隠した。
「ルビエラ、父親とは一度も会ったことないって言ってたよね。それどころか、父親もルビエラの存在を知らないんじゃないかって言ってなかった?」
 ルビエラは、露店商に帽子の代金を支払いながら、シレッとしてロイドをルビエラ呼びし、ロイドに自分の情報をさりげなく伝える。ロイドは口をパクパクさせ、その口の動きは「ふざけんな! 誰がルビエラだよ」と言っていた。声に出さないところを見ると、エリオスという人物を見極めるまでは、ルビエラ役をやってくれるつもりらしい。

 ルビエラが幼い時に母親は死んでいるため、父親のことを聞いた記憶もなかったし、祖父からも「ルビエラに父親はいない!」と言われて育ってきた。遺伝子上の父親はどこかにいるんだろうなとは思っていたが、特に恋しく思うことはなかったし、自分の前世を見る限り、使用人のように自分をこき使う両親を見ていたから、逆に両親なんかいなくて良かったくらいに思っていた。
「そう、俺はおまえの存在を、つい最近知ったんだ。オーズの町へ行く機会があって、ミーシャはとっくに亡くなっているって聞いて、その時に彼女が娘を産んだって知ったよ」
(マニラおばさんあたりが喋ったのかな? 彼女ならば、べらべらと余計なことを話していそう)
「ルビエラの容姿を聞いて、俺の娘だってピンときたね。それに、年齢から逆算すると、ミーシャと付き合っていた時期にドンピシャだ。ルビエラは俺の娘で間違いない。会ってみて、さらに確信したよ。ビビッときた」
(確信したんだ、そうなんだ。あなたが娘だと確信しているのは、男の子でしかも赤の他人ですから。……色んなところで種を蒔いていたら、凄い確率で本物の親子ということもあるかもだけれど、確かロイドは貴族の庶子ってことだしね。ビビッときたのはただの静電気かもね)
「親子水入らずで話したいこともあるでしょうし、私はこれで。じゃあルビエラ、またね」
「ちょっ……こら」
 慌てるロイドを置き去りにし、ルビエラは小走りにその場を離れた。
 エリオスがルビエラの父親かどうかは、正直ルビエラには関係なかった。ルビエラにとって父親とは、結婚する気もないのに避妊もしない最低男の代名詞だ。今さら父親面されても困るし、関わり合いになりたくなかった。



第3話 伯爵令嬢?



「おまえ、何でルーに擬態しているんだよ」
 鍛錬場にやってきた美女からタオルを受け取りながら、ダニエルは眉を寄せた。騎士達は美女を見てざわめき、刃を潰した模造刀を打ち合う手も止まっている。
「俺ん中で美女っつうとルビーだからじゃね。王宮侍女をしている時はこの姿が多いな。姫様のご要望で、たまに違うタイプの侍女にもなるけどよ」
 見た目ルビエラに似せた美女(ダニエルからしたら、ルビエラの方が数百倍も美人で可愛いが)のくせに、声も態度も男っぽくて、ダニエルは心底嫌そうな表情になる。しかも、鍛錬場にいた他の騎士達が、明らかにこの美女のことをチラチラ見ていて、声をかけてあわよくば……と、邪なことを夢想しているのが丸わかりで、それもさらにダニエルの機嫌を悪くする。この美女――女装したロイドが誰に何をされようとどうでも良いが、ルビエラに似ているということが問題なのだ。もちろん、不埒な思考を持つ他の男をルビエラに近寄らせはしないけれど、男達がルビエラとあんなことやこんなことをする想像をしていると思うだけで、その者達の頭をかち割りたくなる。今ここにいるのはルビエラではないが、ルビエラに寄せた変装をしているロイドごときでこの反応ならば、数千倍――いや数億倍可愛い素顔のルビエラがここにいたら、騎士達全てがルビエラに魅了され、その頭の中は破廉恥な妄想で埋め尽くされるに違いない。
「……許さん」
 それこそ蓋然性の低い空想に囚われたダニエルは、周りの騎士達に対して不必要に殺気を放つ。たまたまダニエルと視線が合ってしまった騎士など、蒼白になり模造刀を落としてへたり込んでしまったくらいだ。これが真剣だったら、彼の足は地面に串刺しになっていたことだろう。少しちびってしまったようだが、騎士の矜持の為にも皆が見て見ぬふりをする。
「おいおい、何にイラッとしてるのか知んないけど、その殺気やべーよ」
 それはおまえがルビエラに寄せた変装をしているせいだ! と怒鳴りつけたいのを抑え、ダニエルはゆっくり呼吸して冷静さを取り戻す。
「俺に何の用だ。ここまで来たのは急用なんだろう」
「急用っつうか……ああ、これはアンネローゼ様から招待状な。絶対に参加で、ルビちゃんの衣装はこっちで用意するから、ダニエルおじさまはルビちゃんのエスコート役だけお願い……だそうだ」
 アンネローゼの声真似をしながら言うロイドは、シナを作りながらダニエルに煌びやかなカードを差し出した。それを受け取ったダニエルは、上着を羽織ってから内ポケットにしまった。毎年参加しているアンネローゼの誕生日会。親友である王太子の愛娘の成長はダニエルにとっても楽しみで、もちろん今年だって参加する為に執務の調整をしてある。
 アンネローゼはルビエラのことを殊の外気に入り、ちょこちょこ王宮に呼び出しているようで、ルビエラは王太子妃でありアンネローゼの母親のサリナや、第三王子妃のエリザベスと親交を深めているようだった。
「恋人のドレスを作るのは彼氏の特権なんだから、いくらアンネでもそれは譲れない」
「大人げねぇな。姫様の誕生日パーティーなんだから、姫様たててやれよ。ほら、女ってお揃いとか好きじゃん。お揃いにしたい! って、なんか知らんけど盛り上がってるみたいだぜ」
 それが王命だとしても、恋人に他人が用意したドレスを着せるつもりはない。独占欲の塊になっているダニエルは、ロイドにはっきりと「NO」を突きつける。
「まあ、まだ二カ月以上あるしな。なんなら、出来上がったドレスを並べて、ルビーに選ばせたら? もちろん、どっちがどっちのドレスかは伏せてさ。ひひ、面白いかも」
 ダニエルのドレスは選ばれるわけがないとばかりに笑うロイドを腹立たしく思いながら、ダニエルは午後の鍛錬の終了を騎士達に告げた。騎士達は打ち合いをやめ、ロイドのことをチラチラ気にしながら、模造刀を片付けたり身体を拭いたりと、鍛錬場から出て行こうとしない。ロイドは、そんな騎士達に見せつけるように豊満なバスト(作り物だが、サイズはルビエラのバストサイズを忠実に再現)の下で腕を組み、笑顔を浮かべながら手をひらひらと振って騎士達の反応を楽しんでいる。デレッと相好を崩した騎士達に、「勤務に戻れ!」とダニエルが一喝すると、騎士達は駆け足で鍛錬場を出て行った。
「おお、怖っ……。そうだ! 俺もルビーにドレス作ろうかな。なぁ、選ばれた奴がルビーをエスコートするとか良くね?」
 まだ諦めてないのか……と、ダニエルはロイドを睨みつけた。ルビエラに一目惚れしたロイドは、何かとルビエラの周りをチョロチョロしていて鬱陶しい。こんな子供に負けるつもりはないし、ルビエラもロイドを男として意識していないから脅威ではないが、それでも見るな触るなと牽制してしまう。子供相手に大人げない? いやいや、見た目は女装しても違和感がないくらい小柄で細いが、精通している立派な男だ。エスコート役を譲るなんてあり得なかった。
「冗談でも、ルーを賭けるわけないだろ。それに、おまえはアンネの側付きだろ。女装してエスコートするつもりか」
「そうなんだよな。……まぁ、財力的にも姫様の作るドレスにかなうわけないし、今回は地味女に扮して、姫様の護衛に徹するかぁ」
 ロイドの変装技術はずば抜けており、誰の目にもとまらない地味女子から、女優並みの美女まで、どんなタイプの女性にも変装可能だ。その時々で変装を使い分けながら、アンネローゼの一番近い場所での護衛を任されていた。
「今回はじゃなくて、いつもだよ。おまえがルーをエスコートすることなんて、何十年たってもないからな」
 言い捨てたダニエルが鍛錬場から出ると、なぜか用事を終えた筈のロイドまでついてきた。このまま執務室に戻れば、ロイドがルビエラにからむこと間違いない。
 ダニエルは立ち止まり、振り返るとロイドを睨みつけた。
「まだ何か用事があるのか。ルーに招待状渡すなら、俺が預かるぞ」
「ルビーにはもう渡したよ。実は、その時のことであんたに話があるんだ。ルビーの父親のことでさ」
 ダニエルは首を傾げる。ルビエラの母親は早く死に、彼女は祖父に育てられたと聞いている。この国の平民が性に奔放なように、ルビエラの母親も多くの男性と関係を持っており、父親が誰かわからなかったそうだ。ルビエラが生まれ、その髪の毛がはえそろって初めて、数人いた恋人の中の一人とルビエラの髪色が似ていたことから、ルビエラの父親に当たりをつけたらしいが、それが本当に父親かはわかっていない。その男は傭兵で、ルビエラが生まれる前に辺境の砦での契約期間を終えて自国へ戻ったそうだ。
 そんなルビエラの父親のことを、ロイドがなぜ気にするのか。
「あ、それ、私も聞きたい」
 廊下の角からひょっこりと顔を出したのは、ロイドを近付けさせたくないと思っていたルビエラ本人だった。
「ルー」
「あの人、私に会いに来たんでしょ? なんて言っていた?」
 ダニエルの横までやってきたルビエラは、話が見えていないダニエルのことは無視してロイドに話しかける。
「とりま、ルビーの故郷であんたの存在を知って会いに来た……とか言ってたけど、なんか、生き別れた親子の運命の再会とか、これからは親子二人で助け合って生きて行こうとか、やけに熱く語ってたよ。詳しくは今日の夕飯を一緒に食う約束して、あっちの考えを探るつもりだけど」
「ふーん」
 ルビエラはあまり興味がないのか、ロイドの話を流すように適当な相槌をうつ。
「おい、どういう話なのか、ちゃんと分かるように説明しろ。いや、ここはまずいか。ちょっとこっちに来い」
 ロイドの美貌のせいか、すれ違った騎士達が、ロイドに声をかけたくて遠巻きについてきているのを見たダニエルは、ルビエラの腰を抱いて移動しようとし、ルビエラにペシッと手を叩き落とされる。
「仕事中。ベタベタしない。ロイド、執務室にいらっしゃい」
「ほーい」
 執務室に戻る道すがら、ロイドと一緒にいる時に父親と思われる男性に声をかけられたことをダニエルに説明した。しかも、その父親は、ロイドをルビエラと勘違いしてロイドに抱きついたことも。
「そいつは、本当にルーの父親なのか?」
「わからないわ。髪の色も似ているのは確かだけど、それだけで父親って言われてもね」
 親子ならば魔力の波動が似ているものだが、魔力が薄まっている平民でそれを見極めるのは至難の業だ。血統を重要視する貴族では、嫡男は夫婦の子供であることが絶対条件であるから、後継を決定する時にそれを調べる魔道具は存在するが、平民でそんなことを気にする者はいない。妻の腹から生まれて一緒に生活すればわが子だし、たまたま外で種付けして生まれてしまったどこかの家庭で育った自分の遺伝子を持った子供は他人。それが平民の家族の定義だった。
 だから、ルビエラにとっても血の繋がりはあっても生活を共にしてこなかった父親は他人、今さら親子と言われてもね……というのが正直な感想だ。
 執務室につくと、ダニエルは「会議中」の札をドアノブに引っ掛けて鍵を閉める。これは、ルビエラとイチャイチャしたい時に人払いをする為の札で、休み時間になるとルビエラに内緒で扉にかけていた。
「あの札何?」
「札? ……ああ、入室を控えるようにってことだよ」
「へぇ……」
 会議には会議室があるし、それなりに広さはあるとはいえ、大人数が集まるには大きな机も椅子もない団長執務室で、いったいどんな会議をするというのか。第一、ルビエラがダニエルの補佐事務官になってから、この部屋で会議などは行われていない。
 そう言えば、ルビエラが初めて出勤した日、ダニエルはこの部屋で食堂勤務のマイラーと熱いキスシーンを繰り広げていたが、この札が扉にかかっていたような気も……。

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先行配信先 (2026/10/23〜)
配信先 (2026/11/06〜)